172 / 208

欺瞞11

その他の人間を2人が引き受けてくれた今、俺は荒木と向かい合っていた。 闘志を漲らせる俺に、相変わらず無表情な相手は口を開く。 「鏑木真志喜。大人しく従え」 「鏑木じゃねぇッ。俺は日南真志喜だッ!」 「強情な男だ」 少し呆れた様子を滲ませた言葉にカチンとくる。 強情なのはそっちの方だろうが…ッ! 「あのお方の血が流れていることは、紛れもない事実だろう」 「血がなんだってんだ。死んでも俺は日南組の人間だ」 「あのお方は絶対だと、お前も分かっているはずだが」 「分からないね。分かりたくもない。俺はアイツが世界で一番嫌いなんだよ」 「恐ろしいの間違いだろう」 「ッ…、黙れッ」 一々感に触る事ばかり言いやがる。 わざとやってんのか?だとしたら何としてでもブッ潰す。 いや、そうでなくてもブッ潰す! 「おい。迅たちの居場所は何処だッ?」 「今そこへ向かっていたんだろう」 「情報は正しいんだなッ!?」 「実際に行ってみればいい」 怒りで血管がはち切れそうだ。 コイツ煽ってんのか?そうなのか?そうなんだよな!? 「ブッ殺す!!」 会話するだけ無駄だと地を蹴りつける。 すると相手も駆け出した。 しかしそれは此方ではなく逆方向にある廃墟となった工場へだ。 「はぁ!?このっ、待ちやがれ!」 すっかり出鼻を挫かれた真志喜は余計に苛立ちながらその後を追う。 やがて工場の中に入ると、荒木はその足を止め此方を振り返った。 「何度やっても無駄だ。お前が勝つことはない」 「一回しかやったことねぇだろ!それに先に手を引いたのはそっちだ!決定的に負けちゃいねぇ!」 目をつり上げ抗議するが、相手は相変わらずの無表情。   コイツ、嫌いなタイプだ。 こちらの神経を逆撫でしまくってきやがる。 「その無表情、何が何でも変えさせてやるッ!」 駆け出す俺に、今度は背を向けてはこなかった。 此方の出方を伺ってくる相手に対し、俺はグッと拳を握りしめる。 そのまま右手を引き絞り突っ込んだ俺は、前動作のない状態で鋭く蹴り込んだ。 殴ると見せかけお見舞いした蹴りに、反応の遅れた相手は後ろに後退する。 こちとら速さには自信があるんだ。 そう簡単に防がせはしない。

ともだちにシェアしよう!