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欺瞞13
ポタリポタリと、鼻から垂れた血が地面に落ちる。
それを無表情で拭う荒木に、真志喜は口の端をつり上げた。
しかし、それにしても固い。
ぶつけた自分の額もジンジンと痛んで、少し視界が霞んだ。
一応石頭のはずなのだが。
やっぱコイツ、鉄かなんかでできてんだろ。
「…その体でよくやる」
「ッ、一々ムカつくことを…ッ」
煽っとんのかこのデカブツ。
落ちていた鉄の棒を投げつければかわされる。
その間に距離を詰めた真志喜は拳を相手の腹にめり込ませた。
しかしその腕を引く前に、荒木の手に掴まれる。
「ッ…!」
「しかし、結局は体格差だ」
次には体が吹き飛んでいた。
思いっ切り腹を蹴られたのだと気付いた時には、勢いよく地面を転がる。
「ぁ、ぐッ…!」
息ができない。
常人離れした威力に、堪らず逆流してきた胃液を吐き出した。
ツンとした刺激が口に広がる。
苦しさで生理的に涙が滲んだ。
たった一発で、こんなに堪えんのかよ。
何処までもふざけている。
それでもなんとか意識はあった。
地面に手をつき、なんとか起き上がる。
上体を起こせば体がグラついたが、なんとか踏ん張った。
「これ以上痛い目を見たくなければ、大人しく従え」
「ふ、ざけんな…ッ」
こんなところで、やられるわけにはいかねぇ。
俺にはまだ、成すべきことがある。
迅の顔が頭を過ぎった。
迅…迅…。
今、無事なのか。
一体何処に居る。
心配かけてんじゃねぇよ、バカ。
頭の中で、「真志喜」と呼ぶその声が聞こえる。
それだけで、自然と心が落ち着く。
迅、死ぬんじゃねぇぞ…。
何がなんでも、生きてみせろ。
その為に俺は──。
「何がなんでも…、勝つ」
そうして顔を上げた真志喜は、次には目の前の光景に瞠目した。
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