175 / 208
欺瞞14
「オラァッ!!」
「っ…!?」
背後から勢いよく突っ込んで来た相手が、荒木にしがみ付いた。
突然のことに真志喜の薄れていた意識もパッと晴れ、声を上げる。
「榎本…!」
「西倉さんに行かせてもらいました!真志喜さん!今のうちに!」
引き剥がそうとした荒木が榎本の腹に肘を叩き込むが、榎本は離さない。
そんな子分の必死の働きに、真志喜は顔つきを変えた。
痛みに争い、地を蹴りつける。
「オ……ッラァァ!!」
「ッッ!」
勢いにのった状態での渾身の回し蹴り。
そこには確かな手応えがあった。
いくらコイツでも、何度も頭をブッ叩かれればダメージはあるだろう。
なんなら、もう一発…!
「ガハッ…!!」
「ッ…!?」
荒木の拳が、榎本の顔面に直撃した。
信じられない光景に、真志喜は目を見開く。
地面に転がった榎本は動こうとしない。
「おいっ、榎本…!!」
一瞬、真志喜の意識が荒木から外された。
その一瞬の隙を、相手は見逃さない。
繰り出された強烈な蹴りが、真志喜を吹き飛ばす。
腕の骨が、ゴキッと嫌な音を立てる。
そしてそのまま、真志喜は工場内に置かれたドラム缶かんに突っ込んだ。
激しく響いたドラム缶の地を打つ音が鳴り止み、辺りが静まり返った。
そして一つの乾いた靴音がコツコツと音を立てる。
やがて足を止めた荒木は、横たわり目蓋を閉じる真志喜を無言で見下ろした。
そして徐に携帯を取り出す。
正直ここまで追い詰められたのは初めてだった。
頭に回し蹴りを叩き込まれた時は一瞬意識が飛んだ。
その状態でなおも反撃できたのは殆ど無意識でしかない。
霞む視界の中で、あの方へと連絡を繋ぐ。
少しの静寂の後、コールが鳴り始める。
一度。二度。三度……
「らぁぁああああッッ!!」
「!?」
瞬間。
視界がグルンッと移動した。
いきなり廃れた天井が見えたかと思えば、背中を強く打ち付ける。
「ぐっ…」
咄嗟に手をつき四つん這いになれば、正面にはまるで猛獣の如く鋭い瞳をギラつかせる真志喜の姿。
何故だ。
何故、起き上がる。
それは激しい執着心のようでもあった。
殆ど意識もないままで、動くはずのない体を無理やり動かす。
まるで何かを求めるように、何かに突き動かされるように。
ただただ強い、強い執念。
「狂っている…」
そう呟いた時には、その右膝が己の顔面にめり込んでいた。
天を仰ぎ見、再び仰向けに倒れ込む荒木。
その時点で既に、意識はありはしなかった。
ともだちにシェアしよう!