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欺瞞16

蘇る記憶。 何度も殴られ、蹴られ。 髪を引っ張られ、首も締められた。 忘れない。 俺はコイツに、殺されかけたんだ。 監禁されていた頃に性行為を持ちかけ、逃げ出すために懐柔した男。 名は確か、戸塚といったか。 つまりコイツらは、鏑木の人間だ。 しかし、先程の集団の中にコイツらの姿はなかったはず。 ずっと身を隠していたのか…? まさか…、初めからこれが目的…? 力の抜けた体が揺らいだ。 壁にもたれ掛かり、ズルズル座り込む。 そんな俺を心底愉快そうに見つめる蛇のような瞳に、まるで全身を締め上げられるかのような感覚が襲う。 「しかし、あのガキが成長したもんだなぁ」 呆然とする真志喜の目の前まで来た戸塚は、その場にしゃがみ込み、真志喜の顎を掴み上げた。 「驚いたぜ。こんなべっぴんさんになるなんてよ」 「荒木さんを倒す程の化け物みたいっすけどねぇ」 舐めるように真志喜を見つめる戸塚に、荒木から視線を逸らした若い男が苦笑する。 組織でも断トツで一位の実力を持つ負け知らずだ。 そんな彼がまさかこんな小柄で愛くるしい青年に負けるとは、驚くしかない。 「できれば荒木さんに全部やって欲しかったけど。もしもの為に待機しといてよかったっすねー」 「弱ってる所なら、どんだけ化け物でも別に心配いらねぇしな」 そう言って口角をつり上げた戸塚は、次には真志喜の口元に布を当てがった。 薬品の匂いに真志喜は抵抗しようとするも、限界を超えていた体は上手く動かず、グラリと目眩が襲う。 迅…。 薄れ行く意識の中で、いつも隣にいた男の名を心中で呟く。 「真志喜さん…!真志喜さん!!」 遠くで榎本の叫ぶ声を聞きながら、意識は闇に呑まれていった。

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