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暗闇

「わざわざ若頭が出向くなんて、自分の立場が分かっているんですか」 「ンなもん知るかよ。悠長なこと言ってられっか」 後部座席で聞き分けの悪い子供のように口を尖らせる正嗣に、助手席の清はため息を吐いた。 真志喜たちから迅の居場所が分かったと報告を受け、若頭である正嗣は行くことを譲らなかった。 その為清も同行し、急いで現場に向かっている最中である。 「っ、ここのようです!」 運転していた若衆が車を止めると、すぐに正嗣が降りて行くので清もその後を追った。 そんな無防備に…。 やはり若頭としての自覚が足りないのではないか。 困った若頭に頭痛を覚えながらも、清は十分に周りを警戒する。 するとその時、不意に正嗣が足を止めた。 「どうしました?」 「……どうなってやがる」 「え。……っ」 正嗣の視線を辿った清は瞠目する。 そこには一台の車があった。 良く見慣れた、迅の乗る車が…。 「この車は別の場所に放置されていたはずだろ。なんでここにある?」 「……」 移動して来たとは考え難かった。 それなりに2つの地点は距離があり、報告があってすぐに駆けつけた自分たちよりも早くここに辿り着くとは思えない。 「…どちらかがダミー、ということですね」 「な…」 どちらか、なんて分かっていることだ。 おそらくは向こうが偽物。 迅の乗る車の車種やナンバーを把握した上で、ダミーを作り仕掛けたのだ。 鏑木グループともなれば、それを出来る力くらいはあるだろう。

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