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暗闇5
「ほんと、荒木さん調子でも悪かったんですか?こんなに人畜無害そうなかわい子ちゃんにボコボコにされるだなんて」
目の前で眠る真志喜に、奥田は目尻を下げる。
とても繊細で綺麗な顔立ちをしている。
まるで天使のようではないかと、ついつい見惚れてしまう。
その瞬間。
「…!」
「え」
見つめていた真志喜がパチッと目を開き、反応するよりも早くその額が衝突してきた。
全力の頭突きに奥田が白目を向いて倒れる。
「はぁ!?おい奥田!?」
「いっでぇええ…!!」
咄嗟に荒木が真志喜を取り押さえた。
床に押さえつけられた真志喜は、まるで獣のようにガルルルッと唸り声を上げる。
その様子に奥田がヒィ…っと悲鳴を上げた。
「こ、怖ぇー…っ。何この凶暴な生き物…!見た目詐欺でしょこんなん…!」
そんな中、真志喜は抜け出せない拘束に舌打ちをする。
「クソッ、離せデカブツ!負け犬の分際でゴラァア!」
「口悪…っ」
まだ薬が効いているせいか、上手く力が入らないことに気づいた真志喜は顔をしかめる。
そして次にはその殺気のこもった瞳で、前方にいる鏑木を睨み上げた。
「どういうつもりだよッ。こんな誘拐なんてしやがって、何が目的だッ!」
その問いに、黙り込んでいた鏑木が口を開いた。
「誘拐?家出していた息子を連れ戻しただけだが」
「ッ、この野郎…ッ」
「子供としての責務をまっとうしろ。以前にも言っただろう。お前が必要になったんだ」
よくそんなことが簡単に言えたものだ。
母さんを見捨てたのも、死にかけた俺を路地裏に捨てたのもそちらだろう。
それを息子などと、聞いてるだけで反吐が出る。
「そんなに子供が必要なら勝手に作ればいいだろーがッ。わざわざ俺を巻き込むなッ!」
「……」
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