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暗闇9

その時、突然閉められていた扉が開いた。 俯いたまま視線を向ける。 そこに立っていたのは、相変わらず嫌な目付きをした戸塚だった。 「よぉ。少しは落ち着いたか?」 「……」 何が落ち着いたかだ。 こんな監禁された状態で落ち着けるヤツなんて、ただのバカだろ。 戸塚はその手に朝食の乗ったトレーを持っていた。 それをシンプルは木製テーブルの上に置くと、我が物顔で側にあった椅子に腰掛ける。 「昔みたいに、ここから出たいよーって縋り付いて来ねぇのか?俺から鍵を奪えば、もしかしたら逃げられるかもしれないぞ?まぁ、そう簡単にはいかねぇだろうけど」 「……しねぇよ、別に」 「ん?」 もし万が一に俺がコイツから鍵を奪って、逃げ出せたとする。 じゃあその次は? 俺にとって帰る場所は日南組にしかない。 そこ以外に俺の存在意義はありはしないのだ。 逃げ帰っても、またみんなに迷惑をかけるだけ。 下手をすれば、死人だって出るかもしれない。 榎本と西倉さんの倒れた姿や、迅の笑顔が頭を過ぎる。 今回のことで痛いほど実感した。 俺のせいでみんなが傷付くことは、何よりも辛く苦しい。 そんな事が起こるくらいなら、俺は…。 「なぁ真志喜。久しぶりにヤらせろよ」 「……」 何を、なんて聞く気も起きない。 無気力な心は、動揺することもなくただただ静かだった。

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