186 / 208
暗闇9
その時、突然閉められていた扉が開いた。
俯いたまま視線を向ける。
そこに立っていたのは、相変わらず嫌な目付きをした戸塚だった。
「よぉ。少しは落ち着いたか?」
「……」
何が落ち着いたかだ。
こんな監禁された状態で落ち着けるヤツなんて、ただのバカだろ。
戸塚はその手に朝食の乗ったトレーを持っていた。
それをシンプルは木製テーブルの上に置くと、我が物顔で側にあった椅子に腰掛ける。
「昔みたいに、ここから出たいよーって縋り付いて来ねぇのか?俺から鍵を奪えば、もしかしたら逃げられるかもしれないぞ?まぁ、そう簡単にはいかねぇだろうけど」
「……しねぇよ、別に」
「ん?」
もし万が一に俺がコイツから鍵を奪って、逃げ出せたとする。
じゃあその次は?
俺にとって帰る場所は日南組にしかない。
そこ以外に俺の存在意義はありはしないのだ。
逃げ帰っても、またみんなに迷惑をかけるだけ。
下手をすれば、死人だって出るかもしれない。
榎本と西倉さんの倒れた姿や、迅の笑顔が頭を過ぎる。
今回のことで痛いほど実感した。
俺のせいでみんなが傷付くことは、何よりも辛く苦しい。
そんな事が起こるくらいなら、俺は…。
「なぁ真志喜。久しぶりにヤらせろよ」
「……」
何を、なんて聞く気も起きない。
無気力な心は、動揺することもなくただただ静かだった。
ともだちにシェアしよう!