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高校デビュー3
いくら外さなくてもいいといっても、体育中ずっとマスクなのは不憫で仕方ない。
走る時とか凄く息苦しいし、熱がこもって気持ちが悪い。
ここまでよくマスクを外さずやって来たと思う。
特に夏は地獄で何度も意志が揺らぎそうになったものだ。
今も極力走るのを避けてサッカーの授業を乗り切っているのだが、本当はちゃんと参加したい。
僕は別に運動が嫌いなわけではないし(むしろ好きだし)、中学まではよく友達とサッカーやバスケをして遊んだりもしたのだ。
でも今更でしゃばるなんてできないし、マスクも取れない。
僕はそのジレンマにただただ落ち込んでいた。
こういうとこで交流をとらなきゃ、きっといつまでたっても友達できないよなぁ。
周りに距離取られるうえに僕まで他人を避けてるんだから、ぼっちになるのも当然だ……。
被害にあうのが嫌で警戒しすぎているのが仇になっている。
何のためにここまでしているのか、今ではよく分からなくなってしまっていた。
「あ、危ない!」
「え?」
声がした。
その声が誰のか判断するよりも早く、顔に衝撃がくる。
目の前が一瞬白くなって、視界が揺れる。
何とか踏ん張って顔を押さえると、少し遅れてジンジンとした痛みが襲ってきた。
「うわいってぇ!顔面直撃」
「あーあー。何してんだよー」
押さえていた手を一度離すと、掌に赤いものが付いていた。
鼻から何か温かいのが出ているし、きっと鼻血だろう。
「おい天野、大丈夫か?」
「……ちょっと、洗ってきます」
体育教師から声をかけられた虎介は小さく頷き、動揺する周りを他所にふらふらとした足取りで洗い場へと向かっていった。
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