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ショッピングモールへ8

息を飲む僕に顔を寄せて、シンくんは懇願するような目を向けてくる。 「なぁ、……いい?」 「っ、…う、ん」 頷くと、彼は嬉しそうに笑って、僕の耳元に口を寄せた。 「ありがとう、虎介」 「…っ」 次には体が離れ、僕は放心する。 途端周りが気になり見回したが、エレベーター前の廊下は誰もいないようでホっと息を吐いた。 「じゃあ虎介も、俺の名前呼んで?」 「え」 「ほら。はーやーくー」 楽しそうな彼に困惑したが、次には俯きながら、小さく名前を呼ぶ。 「し、慎太郎……くん」 「……呼び捨ては無理?」 「む、無理…っ」 「そっか。まぁ今はいいか」 「今?」 疑問に思って顔を上げたが、シン……慎太郎くんは「なんでもない」と笑うだけだった。 あれから僕らはショッピングモールで解散になった。 空を見上げると、もう夕方だ。遊んでいた時間があっという間だったことに気づいて、少し驚く。 一人で今日一日の出来事を振り返る。 高校生になってから、こんな風に友達と遊んだことなんてなかった。 中学生の時でも誰かと二人で遊ぶことは少なかったから、なんだか気持ちがふわふわする。きっと慣れないことをしたせいだろう。 そこでふと、マスクと眼鏡を外したままなのに気づいた。 反射的に鞄から取り出そうとするが、思い至ってその手を止める。 そういえば、今日一日顔を隠していなかったにも関わらず何も起きなかった。 それは慎太郎くんパワーなのか、ただ単に顔を見せても大丈夫になったのか。 ……キャップ被ってるし、いいかな。 確認したくなった。 これでマスクも眼鏡もしないまま何事も起きないなら、後者の確率がグッと上がる。 そうすれば学校でだって外せるようになるかもしれない。 今まで多くの被害に遭ってきたのは、中学生までの運気がとてつもなく悪かったから。 顔立ちのせいじゃなく運のせい。 そう思えることができたなら…。 顔を隠さないまま、僕は歩き始めた。 大丈夫。大丈夫だ。今日何も起きなかったんだし、慎太郎くんだって顔を見ても平気じゃないか。寧ろ友達になれたし、何も損をしていない。 学校で顔を見せられるようになったら、少しは慎太郎くんに近づけるかもしれない。 憧れである慎太郎くんに、僕は…。 「ねぇ。君、男の子?」 「…っ」 かけられた声に、一瞬時が止まる。 心臓がドクンと跳ねた。 汗が滲み出てきて、指先が震え始める。

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