「おい！お前なにボーッとしてんだ！」 「ほぇっ？」 ついいつもの癖で傍観してしまっていた僕は我にかえる。 っていうか僕に何かさせてくれる気があったのか。 「ちゃんと取れよ！」 そう叫んでボールが床に叩きつけられる。 僕の前にバウンドしてきたボール。 完璧な場所へのパス。 その途端、体が痺れるような感覚が起きた。久しぶりのそれに自然と体が動く。 そう、僕はバスケが大好きなのだ。 無理やり引き剥がそうとしたこの気持ちは、未だに無くなる気配がない。 掴んだボールは、これ以上ないくらい手に馴染んだ。 愛しの存在に感極まりそうになる。 すぐに僕の体は動き出していた。 下半身の反動を使い、上半身をリラックスさせる。 腕だけを意識せずに、身体のバランスを保ってシュートする。 強くスナップしてシュートしたボールは、吸い込まれるようにリングへ飛んでいき、ストンと入った。 ダンッダンッと床をバウンドする。 一連の出来事に他の三人が呆然とする中、虎介はテクテクと転がったボールを取りに行く。 完璧なスリーポイントシュート。 そのフォームは僅かなブレもなく、洗練されていた。 素人にでもわかるほどの技術の高さに、一同は驚愕する。 「マジかよ…」 「え。今、あいつがやったんだよな…？」 ボールを取って戻ってきた僕は、すぐに自分の失態に気がついた。 つい体が動いてしまったが、こんなことをしたらキャラ崩壊もいいところだ。 今のは偶々だと言ったら納得してもらえる？ いや、そうするしかない。 その時、生駒くんと目が合った。 すると目を見開き僕を見つめていた生駒くんが、次にはふっと笑みを浮かべる。 それはとても様になっているけど、何よりも不気味に感じて僕は後ずさる。 「おい」 「は、はい…」 「またパスするから、ちゃんとやれよ」 「……」 嫌な汗が頬を伝った。 この流れは大変よろしくない。誤魔化すタイミングを逃してしまった。 というか生駒くんを騙すことなんてできるわけがない。 もし中途半端なプレーをしたら、その後が恐ろしすぎる…。