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危険人物8
「天野ってバスケ経験者だよな!」
「え、あ、はい…」
あれから試合は接戦になりゴール数はあまり変わらないものの、僕がスリーポイントシュートを多用していたため結果勝利したのは僕らだった。
これでお昼ご飯の危機を免れたとホッとしているところに、岡本くんから声をかけられ狼狽する。
そそくさとお弁当を持って教室から出ようとしていた僕は、彼からの圧に辟易してしまっていた。
「絶対そうだと思った!フォーム綺麗だし、技術力めっちゃ高いし!どこの中学だったの!?」
「あ、えっと、僕中学校は静岡で…。青藍ってとこなんだけど…」
「えぇ!?あの全国行った!?名門じゃん!」
「あ、あはは…」
こんな教室で騒がれると困ってしまう。
みんなすごいこっち見てるし、ああ、あの人気のない東階段が恋しい…。
そうして身を小さくしていると、岡本くんがここからが本題というように一歩足を踏み込んできた。
「それでさ!是非バスケ部に入って欲しいんだ!」
「……え?」
***
「へぇ。じゃあ虎介はバスケ部に入るか迷ってるんだ?」
「うーん…」
お弁当をつつきながら、何故か隣で菓子パンを食べている慎太郎くんの言葉に思案する。
バスケ部に入りたい気持ちはある。
でもそうできなかったから入らなかったわけで、今更な気もしなくもない。
中学の頃の顧問の先生は、とても素晴らしい指導者だった。
年配の男性教師で、数学を教えていた覚えがある。
その人は部員のことを第一に考え、厳しいけれど愛のある方だった。
だから彼には感謝しかない。
ただ、コーチからはそういった類の被害を受けたことがある。
その人は僕らが二年の時に入ってきたコーチだ。
三十代の独身の男性で、筋肉質な体つきをしていた。
初めは少しボディタッチが多いと感じるくらいだった。
でもどんどんそれがあからさまな手つきになっていき、ある時トイレで壁に押さえつけられ首筋を舐められた。
あまりの恐怖に声も出なかった。
もちろん誰かに言おうと思ったが、このことで部活に支障が出てはみんなに迷惑がかかる。
それ以降はボディタッチ以外に何もされなかったので、僕は誰にも言わずに最後まで部活をやりきってしまった。
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