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危険人物9

部活は一緒に行動する時間も多ければ、日常生活以上に無防備な姿を多く晒すことになる。 ここのバスケ部の顧問や部員をよく知らない今、気軽に部活へ入部することは躊躇われた。 まぁ、そんなことを言っていてはきりがないのだけれど…。 「部活って、マスクをずっとつけられないでしょ?だから厳しいと思って…」 「あー」 紙パックのジュースを飲んでいた慎太郎くんが、ストローから口を離し天井を仰ぎ見る。 そうして少し間が開き、僕がミニトマトを口に入れたと同時に彼は顔を前に向き直した。 「眼鏡だけでもなんとかなるんじゃない?」 「ふぇ?」 予想外の意見に口にトマトが入ったまま間抜けな声を上げてしまう。 一人赤面していると、優しく微笑んだ慎太郎くんが話を続けた。 「マスクを練習中に取っても、激しく動いてたらよく見えないでしょ。それにその野暮ったい眼鏡だけでも結構効果があると思うし」 「そ、そうかな…?」 「うん。通常眼鏡だけでもいいぐらい」 「そ、それはちょっと勇気が…」 「まぁ、そこまでしろとは言わないけどさ。虎介がバスケしたいなら、部活中は眼鏡だけでも平気だと思うよ」 「……」 そうなのだろうか。 自分の顔だから、どこまで隠しておけばいいのか加減がわからない。 確かに眼鏡をかければ、前髪も相まって目元は全然見えなくなるだろう。 ということは、顔の半分を隠せれば十分なのだろうか。 「……一回、自分で見てみるよ。ありがとう慎太郎くん」 「虎介が困ってるなら、俺はなんでもするよ。いやー、それにしてもほんと上手かったよなバスケ。虎介に負けたんなら俺は本望だよ」 「ほ、本望って…」 「だってあんなに上手いんじゃな。全国行ったんだろ?ほんとすごいよ」 「あ、ありがとう…」 なんだか照れくさくて、僕はもう一つミニトマトを口に含んで俯いてしまう。 なんでこんなに彼は真っ直ぐなのだろう。 キラキラの笑顔とともにかけられる言葉にゆでダコになりそうだ。 いや、直射日光を浴びすぎて灰になる方かも。 よく分からないことを考えながら、彼の言葉に相槌を打っていく。 口に含んだトマトは、いつもよりも甘く感じられた。

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