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危険人物10

今日日直だった僕は、先生に頼まれて科学準備室の棚に資料を入れに来ていた。 グラウンドからは部活動をする生徒の声が微かに聞こえてくる。 廊下は静かで、学校の奥に位置するこの辺りは用がない限り立ち寄ることはまずない場所だ。 「これで最後……っと」 全ての資料を入れ終わり帰ろうとした僕は、ふと壁にかけられた鏡に足を止めた。 顔のほとんどが見えていない自分と目が合い、慎太郎くんに言われたことを思い出す。 眼鏡だけでも十分顔は隠せている。 そう彼は言っていた。 いつも家を出てから顔を隠すので、正直眼鏡だけの顔をちゃんと見たことがない。 「ここなら誰もこないし……平気、だよね」 一度周りを確認して、僕はマスクを外した。 大きめのマスクは顔の半分以上を隠す役割をしているので、外すとかなり顔が見えてしまう。 それでも眼鏡のおかげでパッと見は大丈夫なように思えた。 よくよく見ると顔が分かってしまうが、ちゃんと見られない限りは平気だろう。 確かにこれだったら部活に入れるかもしれない。 そう思いながらマスクを再び顔につけようとした。 その時…… いきなりガラッと扉が開く音がした。 「っ!?……っあ」 それに驚いて僕は、手からマスクを離してしまった。 「天野」 「…っ」 苗字を呼ばれて体が強張る。 この声は、生駒くんだ。 彼からちゃんと名を呼ばれたのは初めてで純粋に驚いてしまうのと同時に、後ろに落ちてしまったマスクを取れずに焦りが募る。 そこで咄嗟にスペアをつけようとポケットに手を入れたが、不幸にも今日に限ってマスクが切れていた。 今日の帰りに買おうと思っていたのだ。 不運が重なり頭痛がしてくる。 「先生がこっちの資料を渡すの忘れてたって、俺に押し付けてきたんだよ。そこの棚に入れればいい?」 「あ、ありが、とう…」 心臓がバクバクいっている。 生駒くんにまで聞こえてしまいそうだ。 振り返らない僕を不審に思っているだろうが、取り敢えず彼は資料を仕舞い始めた。 少しの間、静寂が続く。 僕は冷や汗ダラダラで、なんとかしてマスクを取れないかばかり考えていた。 しかし彼に顔を見られずに取るのは不可能だ。どうすればいいのだろう。

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