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危険人物11

「今日のバスケさ。俺がシンに勝ったってより、お前があのペアに勝ったって感じだよな」 「え?」 突然の発言に振り返ってしまいそうになるが、それを堪えて前を向き続ける。 彼は資料を仕舞いながら、話を続けた。 「別にそれがどうこうって意味じゃねぇけど。普通にスゲェなって思っただけ」 「そ、そう、かな…」 「お前あんな動けたら他の種目もそこそこできんだろ。なんでしてこなかった」 「それは、目立ちたくなくて…。今回は、久しぶりのバスケが楽しくて、つい…」 「……ふーん」 今日は立て続けにバスケを褒められて参ってしまう。 いつも存在が空気の僕は調子が狂いっぱなしだ。 生駒くんの資料を片付ける音が止まった。 もう終わったのかと安堵し、彼が出て行くのをジッと待つ。 「なぁ。なんで顔隠してんの?」 「え」 一瞬、時が止まった。 そして次には、ブワッと焦りが込み上げる。 「あ、いや僕、年中花粉症で…っ」 俯いていた顔を上げると、鏡越しに彼がすぐ側にいることに気付き言葉が止まる。 驚いて振り返ると、彼はひらひらと手に持ったマスクを揺らしていた。 「鏡越しにマスク取れてるの丸見え」 「あ、ご、ごめん、ありが……、っ!?」 差し出されたマスクを受け取ろうと伸ばした腕を掴まれる。 そのまま引き寄せられて、至近距離で顔を見つめられた。 (まずい。顔を見られて…!?) 僕を映す彼の瞳が見張られる。 驚きを滲ませた声で「お前…」と生駒くんが呟く。 金縛りにあったみたいに固まる僕の眼鏡に、彼の手がかけられた。 そのままゆっくりと眼鏡を外され、前髪を搔き上げられる。 怯えた眼差しでおずおずと生駒くんを上目遣いに見ると、バッチリと目が合ってしまった。 それに息を詰まらせる僕に、彼は静かな声で問うてくる。 「なんで顔、隠してた?」 「そ、れは…」 今すぐにでも逃げ出したいが、彼にしっかりと腕を掴まれている。 僕が何も言えずに押し黙っていると、生駒くんは溜息を吐き、手を離してくれた。 しかし未だ視線を向けられていて、落ち着かない僕は顔を俯かせる。 「あ、あの。眼鏡とマスクを返して、ください…」 「んー?」 「いや、あの…」 顔を覗き込まれて狼狽する。 正直彼が何を考えているのか分からなかった。

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