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引き立て役10
現れた一人のメイドに、客席はざわつき、息を呑んだ。
透き通るような肌。大きな瞳。小ぶりで整った鼻と口。すらりと伸びた細い手足。
そのどれもが見る者を魅了し、その場の空気をガラリと変える。
アイスココアを頼んで彼の登場を待っていた生駒は、一度周りと同様に言葉を失い、次には苦笑いを浮かべた。
「……想像以上だし」
多くの視線が向けられる中、当の本人は内心怯えながら、店長の教えを必死で思い出す。
『子猫ちゃん。笑顔が大切よ!あなた可愛いから、笑ってればなんとかなるわ!』
アドバイスとしてはいかがなものかと思ったが、「は、はぁ…」としか返すことができなかった。
よし、笑え。笑うんだ。
えっと、笑顔ってどうやって作るんだっけ…。
あれ、口角が動かない…。
なんか緊張しすぎて表情筋が固まってる…。
そうしてさらに内心パニックになる虎介だが、無表情は無表情で人形らしさを際立たせており、より美しさが増していた。
「虎ちゃん」
「…!」
声をかけた生駒は、その手を振ってニコニコと笑顔を浮かべる。
虎介は一度店長にアイコンタクトで許可をもらうと、彼の元へ向かった。
その間も多くの向けられる視線に、無意識にその小さな体をさらに小さくする。
やっとこさ生駒の元へ辿り着くと、彼は両手を合わせて満面の笑みを浮かべた。
「マジでびっくりした。虎ちゃんヤバイくらい可愛いな」
「……」
全然嬉しくない。訴える視線を無言で送ると、「不貞腐れた顔も可愛い」などと言われてかわされてしまった。
まったく。男に可愛いを連発してどうしたいのだ。
「俺の目に狂いはなかった。今日は多分忙しくなるだろうから、ガンバ」
「え。それってどういう…」
「子猫ちゃん!指名きたから注文取って!」
「へっ?あ、はい…!」
尋ねようとした途端に、店長さんから指示が出て慌てて動き出す。
バイトは経験があるので、なんとか注文を取ることはできる。
「いらっしゃいませ。ご注文は…」
指示された席に行けば、男性が三人、身を乗り出してこちらを見てきた。
それに動揺していると、三人は未だこちらをマジマジ見ながら口を開く。
「メイドさん、ほんとに男の子?」
「え?あ、はい…」
「すげぇ…。めっちゃ可愛い」
「ってか女子すらも超えてね?」
真顔で言われて、顔が引きつりそうになる。
こういう視線は、やはりいつまで経っても慣れない。
いや、慣れるのもどうかと思うが、体が強張ってしまうのはどうにかしたかった。
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