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引き立て役11

どうしたらいいのか分からず戸惑っていると、後ろから肩に手を回される。 反応する前に抱き寄せられ、反射的に顔を上げる。 すると至近距離には生駒くんがいて、僕を更に引き寄せてきた。 「あのーすんません。あんま俺のかわい子ちゃんに、悪絡みしないでもらえます?」 「な…っ」 誰がいつ、君のものになったんだ。 そう抗議したかったが、今の状況では言わない方がいいと思いグッと我慢する。 お客さんは何か言い返そうとしたものの、生駒くんのイケメンオーラに気圧されたようだった。 そのまま大人しく注文をしてくれて、なんとかその場を切り抜ける。 「あ、あの。ありがとう…」 「どーいたしまして」 笑みを浮かべ、生駒くんは席に戻って行った。 助けてくれたのは感謝するが、そもそもこうなった原因は彼なので複雑な気持ちを抱く。 こうして親切なところがあるのなら、初めから僕にヘルプを頼まないでくれればいいのに。 彼の考えていることは分からない。 そうしていると再び指名が入ったようで、僕は慌てて動き始めた。 「いやーお疲れ虎ちゃん。大人気だったじゃん」 満足したように隣でニカニカと笑う生駒くんに、疲れ切った僕は一々突っかかる気力もなかった。 疲れた。本当に疲れた。 働いた時間は3時間ほどだが、体感では半日くらい働いた気分だ。 ずっと笑顔で元気に働くメイドさんたちを心から尊敬する。 やっぱり人には向き不向きがあるのだろう。 僕は接客業に向いていない。 人の視線に敏感すぎて無駄に疲れてしまうのだ。 「店長も正式にバイトに入って欲しいとか言ってたよな」 「勘弁してクダサイ…」 「えー、やればいいのに。結構稼げるんじゃね」 「稼ぐ前に僕の精神がもたないよ…」 あれからも何度かお客さんに絡まれててんやわんやだったのだ。 プライベートなことまで踏み込んでくる人もいて、お店でそういった行為は禁止らしく、その人には申し訳ないがお引き取りいただいた。 「せっかく可愛いのにまた顔隠してるし。あんな美少女にもなれる男子高校生がいつもは隠キャとか、見た目と中身のギャップすごすぎ」 面白がる生駒くんを、眼鏡を押し上げながらひと睨みする。 こっちは散々だったのに気楽なものだ。 そっちも3時間も待つのは苦痛ではなかったのだろうか。本当に彼は謎である。 もう二度と騙されたりするもんか、と僕は強く心に誓った。

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