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引き立て役12

「ンな怒んなって。今からほんとにお茶しようよ。俺が奢るから」 「もう懲り懲りです」 「まぁまぁ、好きなの頼んでくれていいからさ。ほら、あそこのカフェ、ショートケーキが有名なんだよ」 「…っ」 ピクッと、体が反応し足が止まる。 「…今、何が有名って?」 「え?ショートケーキだけど?」 「ショート、ケーキ…」 呟き固まった虎介に生駒は首をかしげる。 どうしたのかと顔を覗き込もうとした生駒だが、次には虎介が勢いよく顔を上げた。 額と額がゴンッとぶつかる。 「い…ッッ」 「5個!!」 痛みに呻く生駒に、虎介はそう言い放つ。 その額は生駒同様赤くなっていたが、全く痛がる様子はなかった。 「ッ…5個って、なにが…?」 「ショートケーキ!5個奢ってくれるなら行く!」 「……へ?」 冗談を言っているのかと思ったが、眼鏡ごしに見えるその目はキラキラと輝きを放っている。 本気だと悟った生駒はポカンと口を開け、次には苦笑いを浮かべた。 「虎ちゃんって、ショートケーキに目がないんだ?」 コクコク頷く姿がとても愛らしく、生駒は自然と口元を緩める。 虎介は甘いもの、特にショートケーキが大好きで、時間があればよく家で作ったりするほどだ。 ストレスが溜まると爆食いする傾向もあり、そういう時期は大量のショートケーキが天野家から生産される。 なので父と兄は家にあるケーキの量で、その時の虎介の状態を確認していた。 「いいよ。虎ちゃんとお茶できるなら、そんくらい安い安い」 了承すれば虎介は今日一番の笑みを浮かべた。 初めて向けられる心からの笑みに、生駒は無意識に息を呑む。 「早く行こうよっ、生駒くん」 さっきまでの警戒心は何処へ行ったのか、嬉しそうに腕を引く虎介に、生駒は再び苦笑いを浮かべるのだった。

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