訝しがる僕から視線を外した彼は、ふと思い出しかのように話し始める。 「俺さ。優璃って名前だろ？」 「え？」 いきなりそんなことを言われた。 唐突すぎて僕はつい間抜けな声を出す。 すると生駒くんはそれに構わず話を続けた。 「名前に“優しい”なんてついてるの、なんか嫌なんだよな」 頬杖をつき視線を外へやった生駒くんは、いつもと違う静かな雰囲気を纏っていた。 その瞳が少し陰っているように見えて、僕は黙って話を聞く。 「別に俺、自分が優しいだなんて思ってないし。むしろ性格悪いし。だから自分の名前見るたびうんざりする」 そこで彼の視線が僕に向けられた。 見つめ返す僕に、生駒くんはふっと微笑む。 その話には僕も同感だった。 “虎”なんてついているくせに、僕は自分の身も守れないほど弱くてヘタレだ。 名前がそうだからって、別に気にしなくてもいいのかもしれない。 でも無意識に考えてしまうのだ。 自分は自分の名に全く釣り合っていない、と。 「俺ってほんと性格悪いの。だからこんなに虎ちゃんにもちょっかい出してる」 「え？」 「張り合ってんだよ、あいつと。自分でも分かってんだ。ほんとバッカみてぇ」 彼にしては、随分自虐的な発言だ。 生駒くんは慎太郎くんと幼馴染だと言っていた。 ということはずっとその側には慎太郎くんがいたということだろう。 なら彼はいつだって、慎太郎くんと比べられていたのではないだろうか。 「俺はなんでも二番手。シンには敵わない。俺はあいつの引き立て役でしかねぇんだ」 「でも、生駒くんだって凄いじゃないか」 そう言うと、彼は困ったような笑みを浮かべる。 カップの中のコーヒーをぼんやり眺めながら、その意識は別のところに行っているようだった。 「今はまだマシだけど、昔は酷かったな」 「え？」 「俺、落ちこぼれだったんだよ」 瞠目する。 今日一番の衝撃だったかもしれない。 落ちこぼれなんて、彼には似合わない言葉だ。 彼は慎太郎くんと並ぶ完璧マンで、それは僕が出会った時からそうだったはずだ。 「顔は成長してくにつれてマシになっただけ。それ以外は全部必死で身につけてきた」 カッコわりーよな、と言って彼は笑う。 取っ手を擦る指は止まっていない。 「シンは根っからの天才。俺はそんな幼馴染に張り合い続けて、今こうなってるわけ」