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引き立て役18
僕は「ごめん…」と謝り、体を縮こませる。
そして食べようとしていた残り一皿のケーキに視線を落とし、おずおずと上目遣いで生駒くんを見た。
お詫びのつもりで、そのお皿を差し出す。
「あの、ケーキ、食べますか…?」
「……ップ」
突然吹き出した生駒くんに目を瞬かせていると、笑う彼は僕の頭をガシガシと撫でた。
「そんな顔しなくても、別に食べねぇって」
「そ、そんな顔…?」
「凄く食べたそうな顔」
「…!」
は、恥ずかしい…。
これを奢ってくれてるのは生駒くんで、もう4つも食べているというのに。
ショートケーキになると僕はどれだけ傲慢なんだ。
赤面して慌てる僕をニヤニヤしながら見ていた生駒くんは、頭を撫でるのをやめてコーヒーカップを手に取った。
「虎ちゃんはさ。シンが好きなの?」
「え」
一瞬固まる。
その言い方は、恋愛対象としてという意味だろうか。その問いは少しおかしくはないか?
だっと僕は男なわけだし、そういう感じで慎太郎くんを意識したことはない。
彼は親切にしてくれる友人だ。それに恋愛も何もないだろう。
しかし、慎太郎くんのことを特別視はしているのかもしれない。
彼には人を惹きつける力がある。
僕もその惹きつけられた一人だ。
洗い場で顔を見られてしまってから、お弁当の時間は会いに来てくれて、遊びにも誘ってくれる。
彼といるととても楽しいし、学ぶことも多い気がした。
「……憧れ、なんだ。僕暗いし鈍臭いし、運とかないから、それだけ慎太郎くんが羨ましい。あの人はキラキラしてて、まるで太陽みたいな人だから……側にいたくなるんだと思う」
「……」
生駒くんは、無言で僕を見つめていた。
ジッと見つめられて居心地が悪くなった僕は汗を流す。
「ど、どうかした…?」
「虎ちゃんって、ほんと鈍いのな」
「え?」
「自分が今どんな顔して言ってるか分かってる?」
また顔か。
僕はつくづく顔に出るらしい。
僕が頬をペタペタ触りながら首をかしげると、生駒くんは一度大きな溜息をつき顔を仰いだ。
「あーなんか妬くわー。なんだよもー、俺にすればいいのに」
「??」
「そーだよな無自覚だよな。なんなら一生気づかないでいてくれた方が、俺は助かるわ」
すっかり置いてけぼりの僕がポカンとしていると、生駒くんはグビッとコーヒーを飲み干し僕を指差した。その圧に体が仰け反る。
「でも、シンには気をつけろよ」
「え?」
どういうことかと生駒くんを凝視すると、彼はスッと視線を逸らして、呟くように言った。
「あいつは俺なんかより、よっぽど悪人だから」
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