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ワンコ系男子

『あいつは俺なんかより、よっぽど悪人だから』 あの言葉は、一体どういうことなんだろう。 あの慎太郎くんが悪人なんて、考えられない。 彼はいつも明るくて優しい、太陽のような人だ。悪なんて、彼には正反対すぎる。 なんでか気になって「うーん」と頭をひねっていると、隣にいた彼が僕の顔を覗き込んできた。 「どうしたの?」 「え?あ、いや……」 至近距離の顔に驚いて、咄嗟に俯く。 彼の整った顔は心臓に悪いのだ。何故かドキドキしてしまっていけない。 「また考え事?優璃のやつがなんかしてきた?」 「…っ」 ギクッと肩を強張らせ、無言でブンブン首を横に振る。 脅されて女装喫茶でメイドをさせられたなんて死んでも言いたくない。 恥ずかしすぎるし、その後ケーキを奢ってもらったこともある。プラマイゼロというやつだ。 「ほんとかなぁ?」 「ほ、ほんとほんとっ」 「ふーん」 怪しんでる。絶対誤魔化せていない。 ダラダラと汗を流しながら卵焼きをちびちび食べていると、やがて慎太郎くんは諦めたように息を吐いた。 「まぁ、言いたくないなら強要しないけど。少しは俺を頼ってね?」 「……」 同じようなことを碧兄にも言われた気がする。 慎太郎くんにまで心配をかけてしまって、申し訳なく思った。 僕が小さく頷くと、納得してくれたのか話題が変わる。 「虎介さ。今日放課後どっか食べに行かない?」 「えっ?」 魅力的なお誘いに、ピクンッと体が反応する。 放課後にご飯って、なんだか青春っぽい。 よくそういう人たちを見かけては羨ましいと思っていたのだ。 しかし、了承することはできなかった。 残念に感じながらも僕は「ごめん」と謝罪する。 「僕、夜ご飯作らないといけないんだ…」 「あ、確か虎介作ってるんだっけ」 「うん。家族が夜遅くに帰ってくる日なら大丈夫だと思うんだけど…、ごめんね」 落ち込みながら頭を下げると、慎太郎くんは優しく微笑んで僕の頭に手を乗せた。 「いいよいいよ。ご飯作るなんて偉いじゃん。今度行けそうな日があったら教えてね。待ってる」 「っ、……うん」 ああ、なんていい人なんだ。 その眩しすぎる笑顔に目を細める。 僕には慎太郎くんに後光が射してるように見えた。

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