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ワンコ系男子2
「でも本当いつも美味しそうだよね。そのお弁当」
「え?あぁ、ありがとう」
慎太郎くんに褒められて、つい顔が綻んだ。
僕にとって彼は憧れの人だから、こうやって何かを褒められるととても嬉しくなる。
「ねね、一個食べさせてよ」
「え?あ、うん。どうぞ」
お口に合うか分からかったが、食べたがっているのにあげないのは悪い。
昨日の夜作ったハンバーグを箸で持ち、彼に差し出してから「あっ」と気づいた。
こんな風に食べさせるのは駄目だろう。
よく碧兄に味見してもらう時、こうやって食べてもらうからつい癖が出てしまった。
すぐお弁当に戻そうとする僕だったが、その前にパクリと慎太郎くんが食べてしまう。
ポカンと口を開ける僕をよそに、彼はもぐもぐと味わいながらハンバーグを食べると、満面の笑みをこちらに向けた。
「うんっ。すっごく美味しい」
「…っ」
作ったご飯をよく家族は褒めてくれるが、慎太郎くんに言われるのは新鮮だった。
なんだか無性に嬉しくて、ほにゃんと口元を緩ませてしまう。
「えへへ。ありがとう」
そう言ってお礼を言うと、一瞬動きを止めた慎太郎くんがこちらを凝視してくる。
それにキョトンとしながら見ていると、彼は両手で僕の頬に触れた。
プニプニと頬を揉まれたり押されたりして、僕は目を白黒させる。
「ど、どうしたの…?」
「んー」
微笑んだ慎太郎くんは、両手で僕の顔を挟んだ。
タコのように口を尖らせる僕を見つめて、その瞳を細める。
「……かわいい」
「えっ」
くすりと笑う慎太郎くんはいつもの明るい彼とはまた違った。
何というか凄く綺麗で、見つめられている僕は途端に恥ずかしくなる。
固まる僕を可笑しそうに笑いながら、未だに頬っぺたを弄る慎太郎くん。
その姿は、やはり悪人とは程遠い。
「慎太郎くんはさ…」
「ん。なーに?」
「……いや。ごめん、なんでもない」
何を言おうとしたのだろう。
慎太郎くんは悪人なの?なんて聞けるはずがない。そんなのはあまりにも無神経だ。
気になる止め方をしてしまった。
そう思ったが、はぐらかした僕に言及するわけでもなく、彼は不意に後ろにある窓へと視線を向けた。
「今日、雨だね」
「え?あ、うん」
「俺さ、雨って結構好きなんだ」
「……へぇ」
意外に思う。
慎太郎くんは太陽のような明るい人だ。
そんな彼が雨が好きなんて、想像しずらかった。
でも、その気持ちは分かる気がする。
雨音は聞いていて心地が良く、気持ちを落ち着かせてくれる。
シトシトと窓を伝っていく水滴なんかも、物静かな感じで僕は好きだった。
「僕も、雨は好きだよ」
「そっか。じゃあ一緒だね」
そう言って笑う慎太郎くんは、何故か少し悲しそうに見えた。
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