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ワンコ系男子3
「初めまして。この前はありがとね」
そう言ってまるで天使のような笑みを浮かべるその人に、僕はあたふたと頭を下げた。
休み時間。いきなりやって来た生駒くんの隣には、もう一人小柄な男の子がいた。
彼の名前は四宮 志音 くん。
例のメイド喫茶で働いていて、この前はこの人の代わりに僕がバイトに入っていたのだ。
肩上まであるふわふわとした髪の毛は、白っぽい綺麗な金髪だ。
どうらや彼のお母さんがドイツ人らしくて、その髪は染めているわけではなく地毛なのだとか。
愛らしいその姿は、メイド喫茶でもとても人気があるのだという。
確かにクリクリとした瞳で見つめられると、彼が同性なのも忘れてドキドキしてしまう。
「バイト、大丈夫だった?優璃ってば説明もなしにいきなりやらせたんでしょ?ほんとごめんね」
「なんだよ。わざわざ代わりの子探してやったのに」
「店長も無理に入れろなんて言ってなかったじゃん。どーせ優璃が勝手にやったんでしょ」
え。なんだそれは、初耳だぞ。
聞き覚えのないことを生駒くんに目で訴えたが、笑って誤魔化された。
そんな彼に僕らは溜息をつく。
「あ。そういや写真あるぞ。虎ちゃんのメイド姿」
「なんで!?」
驚愕に目を見開く僕をよそに、生駒くんは携帯を弄りだす。
それを阻止しようと僕は手を伸ばしたが、素早い動きでかわされてしまう。
「お、あったあった。これこれ」
「あぁちょっと…!」
防ごうとするも虚しく、携帯画面を四宮くんに見せられてしまう。
そんなあっさりと見せてしまうなんて、何を考えているのだろうか。
僕が青ざめていると、生駒くんはニカッと笑った。
「大丈夫だって。志音は口が固ぇから。それにこいつが虎ちゃんに被害加えると思う?」
「それは…」
確かに四宮くんは小柄で愛らしい見た目をしているし、僕に変な気を起こすこともないと思う。
というか彼の方が僕なんかよりずっと可愛いし。
なんで生駒くんは四宮くんが側にいながら僕なんかに構うのだろうか。理解できない。
「もしものことがあっても、虎ちゃん運動神経いいし、ワンチャンこいつ相手になら勝てるって」
「……生駒くんと四宮くんって」
「ん?あぁ、志音はシンと一緒で俺の幼馴染」
「え。そうなのっ?」
「よく志音の家行って飯とか食ってるから、家族みてぇなも…」
「ちょっと待って!!」
いきなりの大声にビクッと体が反応した。
見れば携帯を凝視した四宮くんがその大きな目をさらに見開いている。
そしてその顔がバッとこちらに向けられた。
ビクつく僕に四宮くんはすごい勢いで詰め寄ってくる。
「え!え!?これホントに君なの!?」
「は、はい…」
「うそー!?ねっ、ちゃんと顔見せて!お願い!!」
「あ、あの…っ」
四宮くん!声が!声が大きいです!
今僕らは教室にいるのだ。
なのにこの話は危険すぎる。
彼は僕が顔を隠している理由も知らないから仕方ないけれど、このままではかなりマズイ。マズすぎる。
するといきなり腕を掴まれて引き上げられた。
座っていた僕はわけも分からずヒョイっと立ち上がらされてしまう。
「取り敢えず、場所変えよーぜ」
そう言って僕の手を取った生駒くんはニコッと笑みを浮かべた。
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