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ワンコ系男子5
授業も終わり、掃除の時間。
今日から掃除の場所が総入れ替えになり、僕は体育館掃除になった。
僕らのクラスから三人と、隣のクラスから三人の計六人で掃除をする。
中学生の頃までは慣れ親しんだ場所だった体育館も、今では体育の授業以外では利用することがなくなっていた。
だから授業以外で中に入ってみて、少し懐かしい気持ちにさせられる。
「スッゲー!貸切だー!!」
その時、体育館に明るい声が響きわたった。
ビクつく僕の隣から飛び出してきた彼は、体育館を走り回り子供みたいにはしゃぎ出す。
いや、子供というか……犬?みたいな感じだ。
彼は隣のクラスの名塚 遼也 くん。
いつも元気いっぱいで、よく廊下から楽しそうな声が聞こえてくる。
フレンドリーな彼は友達が多く、一人きりでいるのをあまり見たことがない。
背も高くて180は優に超えている。
そのタッパはチビの僕からしたらとても羨ましい限りだ。
掃除が始まり、それぞれ談笑しながらマイペースに作業を始める。
そんな中でもちろん僕は浮いた存在になって一人で掃除をしていた。
すると、いきなり声をかけられる。
振り向いた先には、ニカッと笑う名塚くんがいた。
「君、虎介だよなっ?天野 虎介!」
「え?」
いきなり名前を呼ばれて驚く。
なんで隠キャの僕なんかの名前を彼が知っているのだろうか。
戸惑いながらも頷けば、彼はパァッとさらに笑みを深めて顔を近づけてきた。
その勢いにビクついていると、名塚くんは弾んだ声で話し始める。
「俺、俊に聞いたんだよ!すげーバスケが上手いんだろ!?」
俊というのがすぐに分からなかったが、岡本くんのことかと気づく。
体育のバスケで慎太郎くんとペアを組んでいたバスケ部の人だ。
「俺バスケ部に入ってんだ!高校から始めて、まだ下手くそだけど」
そう言ってはにかむ笑顔はとても無邪気で、爽やかな慎太郎くんのものとは違う魅力があった。
コミュ力の塊のような名塚くんに感心する。
まるで人懐っこいワンコだ。天真爛漫なその姿は警戒心を与えない。
それからは二人で会話して(僕はあわあわ頷くことしかできなかったけれど……)、初めて陰キャラの僕として友達ができたことに嬉しくなる。
動揺してしまったけれど、名塚くんは話す内容も面白くて自然と心を開いていた。
今までは掃除の時間は寂しいものだったけれど、これからは少し、楽しみになった気がした。
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