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偽り
朝学校へ向かっている途中、最寄りの駅で慎太郎くんと出会った。
そのまま一緒に学校へ向かい昇降口で靴を脱いでいると、聞き覚えのある声がして顔を上げる。
「…!」
そこにいたのは名塚くんだった。
友達二人と話しながら靴箱から上履きを取り出している。
昨日のこともあり、とても気まずい。
向こうは僕の素顔に気づいていないだろうけど、それでも顔を合わせ辛かった。
僕の様子がおかしいことに気づいた慎太郎くんが、「虎介?」と隣から不思議そうにこちらの顔を覗き込んでくる。
それに僕がキョトンとしていると、彼の視線が一瞬名塚くんに向けられた。
「あいつがどうかした?」
「え。ああ、いや、その…」
否定も肯定もできずにあたふたしていると、「あっ!」と大きな声が聞こえて体がビクついた。
「虎介じゃん!おはよー!」
「お、おはよう…」
ブンブン手を振られてこちらも小さく手を振り返す。
朝から元気な名塚くんは、友達に先に行っててーと声をかけると、こちらに駆け寄って来た。
つい隣の慎太郎くんを見ると、彼は僅かに眉を寄せていた。
あまり見ない彼の表情に、僕は首をかしげる。
「慎太郎くん?」
「仲良さそうだね」
「え?あ、うん。掃除が一緒で…」
「……そう」
質問の意味が分からず困惑していると、慎太郎くんは無表情で前を見据えた。
僕も顔を向けると、満面の笑みを浮かべた名塚くんが立っている。
「おっ、シンも一緒じゃん!虎介と仲良いのっ?」
「まーね」
その会話に、二人に面識があることに気がついた。
まぁそれぞれのクラスで中心的な立場の二人だ。関わることもそれなりにあるのだろう。
そうして二人のイケメンが一緒にいると、本当に絵になる。
通り過ぎて行く女子たちも、目をキラキラと輝かせていた。
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