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偽り3
「顔、見られたんだね」
「…っ」
その話がされたのは、お決まりになった二人での昼ご飯の時間だった。
慎太郎くんの言葉に一瞬固まり、すぐに無理やり笑みを浮かべる。
彼に変な心配をかけたくなかった。
名塚くんの場合、僕の正体には気づいていない。それならそこまで心配はいらないだろう。
「ま、まぁでも、名塚くんなら大丈夫じゃないかな?聞いたところ、純粋にバスケの方に興味がいったみたいだし」
そうして僕がヘラヘラ笑っている中、慎太郎くんは黙っていた。
そして無表情のまま口を開く。
「まったく何もないとは思えない」
「え?」
「その容姿にどれだけ影響力があるか。虎介自身、それは痛いほど分かってると思うけど。優璃のこともあるし」
言葉が詰まる。
確かに、これまで何回もこの容姿が原因で被害に遭ってきた。
それは分かっている。
でも、優璃くんは慎太郎くんと張り合っているだけだ。
名塚くんもバスケに興味があるから、純粋に褒めてくれただけで…。
「根本は同じだよ。二人は虎介を、そういう目で見てるんだ」
「…っ、そんなこと…」
「虎介」
名前を呼ばれる。
しかしその声は、ひどく冷え切っていた。
いつもの優しさを感じない。
今になって初めて目を向けられた。
彼の瞳に、体が強張る。
なんだろう。
すごく、怖い…。
固まる僕の頬に、慎太郎くんはそっと手を添えた。
教室からの音が届かない、静かな東階段。
その空間に、彼の声が響く。
「俺の、恋人になってよ」
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