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偽り11
すっかり落ち込んで俯く虎介を黙って見つめていた生駒は、その頭に手を乗せくしゃっと撫でた。
「シンのことで虎ちゃんが悩む必要なんてねぇよ」
「でも…」
未だ顔を上げない虎介に、生駒は溜息をつく。
つくづくお人好しなやつだ。
巻き込まれているのはそっちなのに無い責任を感じて、あいつの事情を聞いて自分のことのように苦しんでいる。
知ろうとしているのは、多分シンのことだから。
他の誰かなら、ここまで知りたいとは思わなかっただろう。
カフェでの虎ちゃんのことを思い出す。
シンのことについて話す彼は、とても穏やかな顔をしていた。
しかし本人は無自覚ときた。
ほんと、天然って怖い。
項垂れる虎ちゃんの顔から、マスクと眼鏡を外す。
我に返った彼が慌てる中、顎に手を添え上を向かせた。
至近距離で、見つめ合う。
「あ、あの…?」
「虎ちゃんに落ち込まれると、こっちが困るんだよ」
「え?なんで?」
「なんでも」
ポカンとして見つめ返してくる虎ちゃんに、更に顔を寄せる。
状況を理解していないのか、虎ちゃんは動かなかった。
それをいいことに、無防備なその唇に触れようと……
「コラ」
「いてっ!?」
突然頭に手刀をくらい、その場に蹲る。
容赦のない攻撃だった。
ここまで無遠慮にやるのはどうかと思う。
「何やってんのバカ優璃。そういうことやるから、虎介くんに警戒されるんだよ」
「……志音、お前なぁ」
「大丈夫だった虎介くん。この野獣は僕がなんとかしとくから、逃げていいよ」
そう言って志音はニコリと笑みを浮かべる。
俺は叩かれた頭を押さえ、溜息をついた。
するとガッシリと腕を掴まれ、引き摺られる。
「ちょっ、おい志音!」
「はいはい帰るよー。今日はハンバーグだってー」
一体その小さい体の何処からこんな力を出しているのか。
グイグイ引っ張られる俺はされるがまま。
じゃーねーと志音が手を振る中、虎ちゃんは終始目をパチクリさせているのだった。
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