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温もり
小さい頃、ふと見たテレビで虐待に関するニュースが流れていた。
『虐待とは、大人が自分の感情にまかせて子どもを力でコントロールしようとすることです』
塾の行き道にある家電屋のテレビ。
家ではまともに見せてもらえないから、いつも此処で短い時間それを眺めている。
テレビ越しに聞こえた言葉に、幼い自分はコクリと首を傾げた。
自分は虐待されているのだろうか。
考えてみても、よく分からない。
親はいつだって「お前のためだ」と言って僕を殴る。
何もできない自分が悪い。
そう思ってきた。だから殴られても蹴られても仕方ないと。
しかし……
コントロール。
その言葉がピッタリと自分の中で当てはまった気がした。
ふと体を見下ろしてみる。
今は夏だけど、僕は毎日長袖を着ていた。
腕に痣があるから、それを隠す為だ。
周りにはよく同情の目を向けられるけど、これが当たり前な僕にはよく分からない。
ただ学校終わりにいつも野球やサッカーをして遊ぶ友だちは羨ましかった。
でも僕には習い事がある。
親の言いつけを破ったら、何をされるか分からない。
幼い頃の自分は、親にいいように“コントロール”されていたのだ。
それが崩れたのが、小学5年の頃から。
全てに反発して、悪さもした。
人を殴り、物を盗み、何度も家出をする生活。
しかしその度に家の人間に連れ戻された。
何度も“躾け”をされる日々。
その時の俺は、反抗心だけで動いていた。
しかしそれは変化し、ある時俺は、全てがどうでもよくなった。
それからは反発することを止めた。
向こうが満足するなら、適当に合わせればいいのだ。
薄っぺらい笑顔をくっつけて、ヘラヘラして。
そうしていれば大抵のことは上手くいく。
要するにあいつらは都合のいい人形が欲しいのだろう。
だったら適当に合わせていればいい。
騙せばいいのだ。このまま反抗し続けたって、何にもならない。
ひねくれて不良になって問題起こして退学になって、そのままチンピラや社会のゴミになるなんて、そんなのは馬鹿のすることだ。
しかし、全てを思い通りにさせるつもりなんてなかった。
どうせ大学はあいつらの意向で勝手に決められるだろう。
だったら高校くらい、自分の意思で決めたかった。
親の目を欺くのは一苦労だった。
でもあいつらは仕事仕事の毎日なので、そこまで俺に付きっ切りなわけではない。
家には雇われたやつらが数人いるが、色々弱みがあるのを知っているので脅して黙らせた。
どうでもいいという考えの中でも、いいように操られている自分を感じて、偶に黒い感情がはち切れそうになる。
俺は何の為に生きているのか。
親を満足させる為?
ご機嫌取りの道具か何か?
無力な自分が、どうしようもなく歯痒かった。
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