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温もり3

一歩二歩と、その距離を縮める。 無言でソファーに座る相手を見下ろした。 俺の纏う空気が変わったことに気づいたのか、その顔が僅かに強張るのを無表情で眺める。 こんなやつの血が自分の中にあるというだけで、死ぬほどの不快感を覚えた。 幼い頃、力で屈服していたことにも激しく苛立つ。 こんなやつに。 こんなやつに俺は…。 「お前何様だよ。そんなに息子を自分の思い通りにしたいわけ?それが本当に正しいと思ってんの?弁護士だったらもっと頭使えよ」 「な…っ」 紅潮していく相手の顔を見下ろす。 母親がいないのはラッキーだった。 もしいたのなら、キンキンと喧しい声で騒がれただろう。 あの面倒さといったらない。 あいつのせいで、俺は女に対して苦手意識があった。 フルフルと体を震わせながら、父は立ち上がる。 顔を真っ赤にして俺を睨みつけた。 幼い頃こそ恐怖を抱いていたが、今はもう何の怯えも感じない。 大の大人が子供の発言に憤っている、間抜けな図にしか見て取れない。 「お前をここまでしてやったのは、誰のおかげだと思っているんだ!!」 そう怒鳴り散らす相手を、俺は静かに見据えた。 大きな声を上げれば、俺が従うとでも思っているのか。まったく、弁護士が聞いて呆れる。 室内がしんと静まり返る中、俺は唇を歪ませた。蔑むように笑い捨てる。 「くだらねぇ」 次には驚愕に見開かれるその瞳から視線を外し、踵を返す。 後ろから呼び止める声が聞こえた。それでも止まらず、俺は足を進める。 これ以上クソみたいな会話を続けたくない。 俺はドアノブを回し、行く当てもないままに家を出て行った。

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