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温もり4
雨は好きだ。
浴びていると、俺の中にある汚いものを流してくれる気がする。
今も降り続ける雨を、俺は傘もささずに浴びていた。
1人公園のベンチに座って、側から見たら変なやつにしか見えないな。
でも今は雨に濡れていたかった。
少しでも自分から汚いものを流してしまいたい。
「関係を断て」と虎介のことを言われて、柄にもなく頭にきた。
折角今まで上手くやっていたのに、何をしているんだろうか。
ふっと息を吐く。
虎介に、悪い事をした。
正直なところ、罪悪感が半端ない。
つい優璃、遼也と、他のやつの話が続いてムキになった。
散々親を馬鹿にしているが、自分も大概だと思う。
嫉妬とかガキかよ。勢いに任せて思いも告げちゃったし。
虎介のことになると、何故か上手くいかない。いつも通り立ち回れない。
だって今俺おかしいんだ。
あんな事をしてしまったのに……
虎介に会いたい、だなんて…。
「慎太郎、くん…?」
「…っ」
その声に、弾かれたように顔を上げる。
視線の先には、マスクと眼鏡をした、いつもの虎介が立っていた。
夕飯の買い物をしていた僕は、ふと見覚えのある横顔に足を止めた。
雨の中、傘もささずにベンチに座っているその人は虚ろな瞳をしていた。
心ここに在らずというか、別の場所に意識がいっている感じ。
その上酷く無気力で、なんの生気も感じられない。
あまりにいつもの彼とは正反対すぎて、その人が慎太郎くん本人だと気付くまで少し時間を要した。
でも間違いない。あれは慎太郎くんだ。
彼との気まずさも忘れて、声をかける。
放っておけるわけがなかった。
今の彼はいつもより小さく見えて、どこか危うく。ふっと何処かへ消えてしまいそうな儚さを感じた。
「ど、どうしたの?傘もささずに…」
瞠目しジッとこちらを見る慎太郎くんに、僕は自分の傘に入れながらあわあわと切り出す。
その言葉でやっと意識がこの場所に戻ったようだ。
ポカンといつもの彼ならしないだろう無防備な表情を向けられる。
その幼げな表情に、僕の心臓がドクンと跳ねた。
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