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温もり5
「……買い物」
「え?」
呟くように言われた言葉に首をかしげる。
すぐ理解できなかったが、慎太郎くんの視線が僕の持つエコバックに向けられていると気づき、納得がいった。
「ああ、今、買い物に行ってたんだ」
「そう。偉いね」
言いながら優しく微笑まれ、困惑する。
様子がおかしいことが気になった。
何かあったのだろうか。それとも、雨のせいで風邪を引いてしまったとか。
というかまず、雨でびしょ濡れになっている時点で大丈夫じゃない。
「あの、慎太郎くん。なんでこんなところに…?風邪、ひいちゃうよ…?」
恐る恐る尋ねれば、彼は再び瞳を陰らせる。
濡れた彼の髪の毛から、ポツリと雫が滴り落ちた。
「大丈夫。ちょっと、家に居たくなくてさ」
「…っ」
今日生駒くんから聞いた話が頭をよぎる。
やっぱり両親と上手くいっていないんだ。
もしかして酷いことされたのかな?
虐待ってまだ続いてたりする?
でも慎太郎くんに痣があるのは見たことないし、高校生になってからはないのかな。
でも、何かしら問題があるのは確かで……
「おーい虎介」
「っ、な、何っ?」
顔を覗き込まれて我に返った。
ビクつく僕に、彼は苦笑いを浮かべる。
「どうしたの?怖い顔して」
「あ、いや、ちょっと考え事を…」
「ふーん。俺には言えないこと?」
「えっ、あ、えっと、それは…っ」
あわあわしていると、いきなり慎太郎くんが噴き出した。
ケタケタ笑われて、僕はポカンと立ち尽くす。
慎太郎くん、笑ってる。
無邪気な、いつもの笑顔だ。
始めてショッピングモールで遊んだ時と同じ顔だ。
「虎介」
「…っ」
傘を持っていない左手をそっと握られる。
雨で濡れているせいで、彼の手は酷く冷たかった。
「怖い?」
静かに尋ねられる。
その言葉に、触れ合った手を見下ろした。
僕より大きな手。
この手に何度も握られて、いろんな場所に連れて行ってくれた。
僕はとろいから、どうすればいいのか分からずに立ち竦んだ時、いつも慎太郎くんが道を示してくれるのだ。
今でも変わらない。
慎太郎くんは、僕の憧れの人。
「怖くないよ」
むしろ、安心する。
僕がそう返せば、慎太郎くんはくしゃりと泣いてるみたいに笑った。
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