76 / 216

温もり6

「ただいまー…」 「お帰り……って、あれ。どうしたのその子」 今になって事前に連絡しておけば良かったと後悔した。 驚いた様子の碧兄に、えーっと……と隣のびしょ濡れの慎太郎くんを紹介する。 「と、友達の慎太郎くん」 「初めまして。いきなりお邪魔してすみません」 ペコリと頭を下げる慎太郎くんに、碧兄は僅かに瞠目した。 「そう、君が…。あ、取り敢えず上がって。虎介、お風呂に案内してあげな」 「うん」 「服も洗濯してね。代えは俺の持ってくから、それ着て」 「あ、あの…」 テキパキと指示する碧兄に、慎太郎くんは呆気に取られているようだった。 慣れている僕は、そんな彼の背中を押してお風呂場へ向かう。 「あれが例のお兄さん?凄いイケメンだね」 兄を褒められ、自分のことのように嬉しくなる。 そう、碧兄は僕のヒーローで自慢の兄なのだ。つまり慎太郎くんと同じ憧れの人。 まさか二人がこんな形で会うことになるとは思わなかったけど、ちゃんと碧兄に慎太郎くんを紹介できてよかった。 きっと碧兄も、慎太郎くんと同じようなことを思っただろう。 「碧兄は父さんにも似てるから。僕は完全に母さん似らしいけど」 「ふーん。じゃあお父さんもイケメンなんだ」 「でも性格は全然違うんだよ。いつも父さん、碧兄に叱られてるんだ」 どっちが親か分からない、とおかしくてクスリと笑う。 そんな僕を見つめていた慎太郎くんは、僅かに顔を俯かせ微笑んだ。 「いい家族だね」 その言葉にしまったと後悔する。 彼の家庭事情を知っていながら、無神経な話をしてしまった。 慎太郎くんにとっての家族と、僕にとっての家族は違う。だからその部分はもっと慎重に触れるべきだったのに…。 「優璃か志音辺りに何か聞いた?」 「…っ」 見抜かれて息を止める。 丁度洗面所に着き、その前で僕らは立ち止まった。 誤魔化すのも嫌で、「ごめん」と頭を下げる。 「生駒くんに、少しだけ聞いた…」 「聞いたって、なんで?」 「それは…」 君のことが知りたくて。 そう言おうとして口をつぐむ。 なんだかそれこそ無神経な気がして申し訳なくなったのだ。 そんな僕を黙って見つめていた彼は、やがて苦笑を浮かべると洗面所に入って行った。 「言いたくないならいいよ。お風呂借りるね。服は洗濯機に入れちゃえばいい?」 「あ、う、うんっ」 「分かった」 そう言って扉を閉めようとした彼は途中でまた開き、こちらに顔を覗かせる。 どうかしたのかと首をかしげる僕に、彼は微笑んだ。 「虎介、ありがとう」 「…っ」 途端赤面する僕に今度は無邪気な笑みを浮かべて、彼は扉を閉めた。 熱くなった頬に触れて、溜息をつく。 彼といるとドキドキしてしまっていけない。 ただお礼を言われただけだ。 なのに何故、こんなに心がざわつく? ほんと、自分が自分で分からない。 「虎介。これ、洗面所に置いといて」 「っ、あ、うん…!」 碧兄の言葉に我に返り、僕はブンブン頭を振って気持ちを切り替えた。

ともだちにシェアしよう!