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温もり6
「ただいまー…」
「お帰り……って、あれ。どうしたのその子」
今になって事前に連絡しておけば良かったと後悔した。
驚いた様子の碧兄に、えーっと……と隣のびしょ濡れの慎太郎くんを紹介する。
「と、友達の慎太郎くん」
「初めまして。いきなりお邪魔してすみません」
ペコリと頭を下げる慎太郎くんに、碧兄は僅かに瞠目した。
「そう、君が…。あ、取り敢えず上がって。虎介、お風呂に案内してあげな」
「うん」
「服も洗濯してね。代えは俺の持ってくから、それ着て」
「あ、あの…」
テキパキと指示する碧兄に、慎太郎くんは呆気に取られているようだった。
慣れている僕は、そんな彼の背中を押してお風呂場へ向かう。
「あれが例のお兄さん?凄いイケメンだね」
兄を褒められ、自分のことのように嬉しくなる。
そう、碧兄は僕のヒーローで自慢の兄なのだ。つまり慎太郎くんと同じ憧れの人。
まさか二人がこんな形で会うことになるとは思わなかったけど、ちゃんと碧兄に慎太郎くんを紹介できてよかった。
きっと碧兄も、慎太郎くんと同じようなことを思っただろう。
「碧兄は父さんにも似てるから。僕は完全に母さん似らしいけど」
「ふーん。じゃあお父さんもイケメンなんだ」
「でも性格は全然違うんだよ。いつも父さん、碧兄に叱られてるんだ」
どっちが親か分からない、とおかしくてクスリと笑う。
そんな僕を見つめていた慎太郎くんは、僅かに顔を俯かせ微笑んだ。
「いい家族だね」
その言葉にしまったと後悔する。
彼の家庭事情を知っていながら、無神経な話をしてしまった。
慎太郎くんにとっての家族と、僕にとっての家族は違う。だからその部分はもっと慎重に触れるべきだったのに…。
「優璃か志音辺りに何か聞いた?」
「…っ」
見抜かれて息を止める。
丁度洗面所に着き、その前で僕らは立ち止まった。
誤魔化すのも嫌で、「ごめん」と頭を下げる。
「生駒くんに、少しだけ聞いた…」
「聞いたって、なんで?」
「それは…」
君のことが知りたくて。
そう言おうとして口をつぐむ。
なんだかそれこそ無神経な気がして申し訳なくなったのだ。
そんな僕を黙って見つめていた彼は、やがて苦笑を浮かべると洗面所に入って行った。
「言いたくないならいいよ。お風呂借りるね。服は洗濯機に入れちゃえばいい?」
「あ、う、うんっ」
「分かった」
そう言って扉を閉めようとした彼は途中でまた開き、こちらに顔を覗かせる。
どうかしたのかと首をかしげる僕に、彼は微笑んだ。
「虎介、ありがとう」
「…っ」
途端赤面する僕に今度は無邪気な笑みを浮かべて、彼は扉を閉めた。
熱くなった頬に触れて、溜息をつく。
彼といるとドキドキしてしまっていけない。
ただお礼を言われただけだ。
なのに何故、こんなに心がざわつく?
ほんと、自分が自分で分からない。
「虎介。これ、洗面所に置いといて」
「っ、あ、うん…!」
碧兄の言葉に我に返り、僕はブンブン頭を振って気持ちを切り替えた。
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