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温もり9
「いえ、俺が強引に近づいた感じなので」
「それはどうして?君はクラスでも人気者だと聞いたから、歩み寄ってくれたのかな?」
「そんな上からなことしませんよ。ただ純粋に、話したいと思っただけです」
「虎介の容姿が関係してる?」
単刀直入に聞かれた。
先ほどの視線といい、この人は穏やかな見た目に似合わず侮れないところがある。
別に彼を敵対視するつもりは毛頭ないが、少し身構えてしまう感覚はあった。
「否定はできません。でも、それが全てじゃないです」
「ふーん。じゃあ少なからず好意を抱いてるってことかな」
ここで言う好意が、友人としてのものではないことくらい分かっている。
碧兎さんの声や表情は、あくまで優しげなものだった。
俺に対して、冷ややかな感情は向けてこない。
あくまで否定はしないと言うことだろうか。
しかし気を抜くことはできなかった。
碧兎さんはかなり鋭い人だ。だから偽りを混ぜてという駆け引きはかなりリスクがあるだろう。
そう結論付けて、俺は決心し足を止めた。
同様に立ち止まる彼に、俺は真っ直ぐ視線を向ける。
「この前、虎介に告白しました」
碧兎さんは静かに俺を見つめていた。
その表情からは驚きも怒りも読み取れない。
虎介に対して好意を持つ相手は大勢いただろう。それは男でも女でもだ。
今はマスクと眼鏡で変装しているから、実際にそういった現場を見ることはない。
でもショッピングモールでのことだったりで、想像するのは容易い。実際優璃とかに絡まれているわけだし。
そして俺もその中の一人だと思われても仕方ない。
そうなれば、碧兎さんもいい思いはしないのではないだろうか。
気を緩ませることなく、碧兎さんを見つめ返す。
静寂が少しの間続いた。
しかし次には、碧兎さんがくすりと笑みを浮かべた。
そんな彼に、俺は肩透かしを食らう。
「なるほど。道理で虎介の説明に違和感があったわけだ」
「説明?」
「ああいや、ちょっとしたお悩み相談を受けてたんだよ。俺と父さんで。あまりにもショートケーキで部屋が埋まってたから、何事かとヒヤヒヤしたんだ」
話が読めずに「はあ」と気の無い返事をすると、彼は俺の肩をポンと叩いた。
「反対はしないよ。恋は青春の醍醐味だしね。その目は本気の目だ。生半可な気持ちで虎介に接してるわけじゃない」
ただ、と言いながら彼はこちらに背を向け歩き出す。
「虎介を困らせないでやってくれよ。繊細な子なんだ。昔からあの顔のせいで、色々と苦労してる」
それは変装してる理由からして察しはついていた。
あそこまで自分の顔にコンプレックスを感じているのだから、かなり辛いことがあったのだろう。
東階段で俺に怯えていた虎介を思い出す。
再び罪悪感が込み上げてきて、堪えきれず溜息をついた。
「でもまあ、慎太郎くんには感謝してるよ」
「え?」
きょとんとする俺に碧兎さんは微笑むだけで、それ以上何も言ってくれなかった。
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