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温もり10

なんだ。この可愛い生き物は。 リビングに戻って来た慎太郎は、目の前の光景に立ち尽くした。 洗い物を済ませた様子の虎介は、ソファーで横になり、すぅすぅと眠っていた。 よくSNSなどで子犬や子猫だったりの動画が上げられているが、正直自分にはその魅力がイマイチ分からなかった。 確かに可愛いと思うが、そこまで夢中になって何十分もずっと眺めている人の気が知れない。暇なのか?とさえ感じる。 しかし今、分かった。やっと分かった。そうかこれか、これなのか。 いつまでも見ていたくなるほど可愛いくて、癒し効果が半端じゃない。 色々考えすぎて停止している俺の横で苦笑いを浮かべる碧兎さんは、「まったく。困ったやつだなぁ」ととびっきり甘い声で言いながら虎介に歩み寄った。 その表情もとびっきり甘い。 甘いマクスがさらに甘くなって、周りに花でも浮かんでそうなほど貴公子さに磨きがかかっている。 やっぱりこんな愛くるしい弟がいたら、ブラコンにならざるを得ないだろう。 一人っ子ながら、メロメロになっている彼の気持ちはよく理解できた。 しゃがんで虎介の頭をそっと撫でてから、碧兎さんは立ち上がり肩をすくめる。 「熟睡してる。色々あったし、疲れちゃったのかな」 「そうですか」 「んー、まぁそのままにしていてあげて。俺はお風呂入ってくるよ」 「あ、はい」 部屋から出る間際、彼は一度こちらを見て「手を出したらだめだよ」と悪戯っ子のように笑った。 部屋に二人きりになり、なんとなく虎介の側に寄ってみる。 しゃがみ込み顔を覗くと、俺は無意識に息を呑んだ。 間近で見ると一層綺麗に思えた。 長い睫毛が虎介の可憐さを際立たせている。 小ぶりな鼻。薄い唇。スッと綺麗な曲線を描く輪郭。 こんなに整った顔立ちでは色々と苦労するのも無理はないだろう。 ついついその柔らかい頬を突いてしまった。 プニプニとまるで赤ん坊のように柔らかい頬の感触に口元が緩む。 なかなか止められないでいると、虎介がキュッと眉を寄せた。そしてぐずるように「うぅ」と唸って身を捩る。 「こーちゃん…やぁ…」 「!?」 その幼い言葉に、俺はビキリと固まった。 こーちゃん? 今、自分のこと“こーちゃん”って言ったのか? え、なにそれ可愛い。可愛すぎるだろ。そんなの反則だ。レッドカードだ。これ程までに破壊力のある言葉を聞いたことがない。 すっかり爽やか優等生のキャラも忘れて、慎太郎は虎介の可愛さに頭を抱える。 そうしていると、虎介がもう一度身を捩り瞼を震わせた。 そしてそのままゆっくりと開かれ、まるでガラス玉のように透き通った瞳が姿を見せた。

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