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温もり12

「俺。誰かと夕飯食べるの、久しぶりだったんだ」 そう静かに告げられた事実に、胸に痛みが走った。 僕の顔が強張ったのに気付いたのか、慎太郎くんは大丈夫だと言うように、優しく微笑んでくれる。 「凄く楽しかった。昼休みの時も思うけど、虎介と食べるご飯はとびっきり美味しい」 「……美味しいって、慎太郎くん、いつも菓子パンばっか食べてるじゃないか」 僕の指摘に、慎太郎くんは苦笑いを浮かべた。 触れられたくない話だっただろうか。今更失言に気づいて後悔する。 しかし、それでも知りたいと思った。 彼の抱える辛さを、少しでも軽くしてあげたい。 僕なんかの力では、そんなことは出来ないかもしれないけれど。何もしないままなのは嫌だった。 「……弁当はさ、本当は家政婦の人が作ってくれるんだけど、断ってんの」 「え?」 「だって虚しいだけじゃん。というか……俺の勝手なわがまま。そこまでして縋っていたくないって思っちゃう。ない愛情なんて、求めたって何にもならないから」 そう言って、慎太郎くんは笑った。 その笑顔に、胸がいっぱいになる。 いつも彼は、こうして笑っている。 誰にも頼らず、自分さえも欺いて、何でもないように明るい表情を見せる。 「……慎太郎くん」 「ん?」 自然と体が動いた。 そして気付けば僕は、慎太郎くんを抱きしめていた。 すると慎太郎くんの体は少し強張った。 静まり返った室内で、彼の掠れた声が僕に届く。 「……どうした?」 いつもとは違う様子に、彼の深い部分に入り込んでいく感覚を味わう。 僕の小さい体では慎太郎くんを包み込むことは出来なくて、しがみ付く形になってしまった。 そんな自分が情けなくて、恥ずかしさに顔を赤らめながら、僕は弱々しく答える。 「君が、泣きそうな顔してたから…」

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