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芽生える想い4
今日一番の驚きだった。
志音くんは、同性に好きな相手がいたのか。
偏見ではあるが、確かに彼の場合彼女といるよりも彼氏といた方がしっくりはする。
でもそうか…同性が好き、か…。それはどういう感じなのだろう。
同じ男性に恋をするって、どんな…
『虎介が好きだ』
「…っ」
いきなり思い出された記憶にカァッと赤面する。
彼に好きだと言われた。
悲しそうに笑う慎太郎くんを、僕は守りたいと思った。
抱き締めて、密着したあの時の心地よさを覚えている。
胸の辺りがざわついて、触れて欲しいと感じてしまった。
こんな感情、きっと慎太郎くんにしか抱かない。
もしこれが志音くんの言う恋なのだとしたら、彼も同じ想いを馳せる人がいるということか。
それは一体誰だろう。志音くんと親しい人物だろうか。
……親しい人?
『なるほどね。優璃が夢中になるわけだ』
出会った時、志音くんは僕の素顔を見てそう言った。
あの時の寂しそうな顔を覚えている。
もしかすると、志音くんは……。
「生駒くんのことが好きなの?」
聞いてからハッとした。あまりにも無神経過ぎるだろ。
「あ、いやその…っ、今のはなんていうか…っ」
「うん。好き」
はっきりと告げられた言葉に、瞠目する。
目の前の志音くんはゆっくりと目を伏せた。
「小さい頃からずっと、優璃が好き」
「…っ」
僕に対して言われたわけじゃないのに、ドキッとしてしまう。
その表情はどこか大人びていて、とても綺麗だと思った。
いつだったか父さんが、『女は恋をすると綺麗になる。一気に色気付いて別人みたいになるんだ。スゲェよな』と笑っていた。
志音くんは女の子じゃないけど、恋する乙女ってこういう感じかなって思う。
彼はシェイクのストローをくるくる回しながら、何かを思い出すようにして微笑んだ。
「あいつって努力家なの。何やってもダメダメの落ちこぼれだったくせに、シンに勝ちたいって必死になってさ。初めはバカだなって思ってた。そんなの無理に決まってんじゃんって。でも、あいつは努力でここまで成長してる。地味男だったくせに今モテてるのはちょっとムカつくけど、でも、それ以上に凄いって思う」
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