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芽生える想い5

そう語る志音くんを見つめながら、僕は驚きながらも純粋に感心した。 だってずっと恋心を抱き続けているのだ。 何年も1人を想い続けるのは、きっと簡単なことではないだろう。 それでも志音くんは高校に入っても生駒くんの側にいる。 その想いに気づいてもらえなくても、告げることができなくても、ずっと。 それはとても辛いことで、普通に考えれば諦めてしまいたくなるはずだろう。 でも志音くんは彼が好きだと言った。小さい頃からずっと好きだと。 それってやっぱり、とても凄いことだと思う。 「が、頑張って!僕、応援してる…!!」 両手をグッと握りしめ、前のめりになる。 そんな僕に志音くんはポカンとしていたが、次にはふふっと笑みを浮かべた。 「ありがとう。虎くんも頑張って」 「え?」 「だってシンのこと、好きなんでしょ?」 「す…っ」 ブワッと顔を赤らめると、志音くんは意地悪く笑った。 やっぱり、好き…ということになるのだろうか。あまり実感は持てないけど、否定できないのも事実ではある…。 「でもシンって、優璃以上に腹黒だから気をつけてね」 そう付け足す彼に、僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。 志音くんとマックを出て別れようとした時、「あ!!」と大きな声がした。 何事だと視線を向け、そこにいた人物に眼を見張る。 名塚くんだ。 ジャージ姿で小脇にバスケットボールを抱えている。 そういえばマックの近くにバスケコートがあったから、もしかして自主練をしていたのだろうか。 彼は僕が気づくなりキラキラと眼を輝かせてこちらへ駆け寄ってきた。 その様子に隣の志音くんが「わぁ」と感激するように声をあげる。 「あの反応、ご飯あげる時のカイと同じだ」 「カイって……飼ってるっていう?」 「うん。うちの柴犬」 確かにワンコ感はあるけど…と苦笑いを浮かべていると、名塚くんが目の前までやってくる。 隣の志音くんが「このワンコって、3組の?」と僕の耳元で尋ねてきた。 それに僕は答えようとして、ふと違和感を感じる。 あれ。僕、何かし忘れているような…。 「また会えましたね!天才バスケ美少年さん!!」 「え?……ぁあ!?」 そうだ!マスクと眼鏡、付けるの忘れてた!! 失態に慌てふためく。 どうしよう。まさかまたこの姿で会ってしまうなんて…。 「あの、お願いがあるんス!」 「え。お、お願い?」 突然切り出されて、ポカンとしてしまう。隣の志音くんも同じ反応だろう。 そんな僕らにとびっきりの笑顔を向けて、彼はバスケットボールを両手で持った。 「シュートのコツ、教えて下さい!」

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