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芽生える想い6
タンッタンッと地面にボールをつくのを繰り返しながら、僕は呆然としていた。
一体何をしているんだろう…。
結局またバスケの魅力に抗えなかったなんて…。
「おーい。目が死んでるよー」
ベンチに座る志音くんが、ぷらぷらと足を揺らしながら声をかけてきた。
白くてモコモコしたマフラーがとても似合っている。まるで天使みたいで、ついつい可愛いなぁと見惚れてしまった。
なんでこんなに綺麗な人が側にいるのに、生駒くんは僕にちょっかいをかけるのだろう。
喧嘩するほど仲がいい?嫌よ嫌よも好きのうち?
うーん…、よく分からない。
名塚くんがバスケの話を持ち出した時、志音くんに「え、バスケできるのっ?いいじゃんやってよ。僕も見てみたーい!」と興味を示されてしまった。
そのため断ることもできず、今僕はノコノコとバスケットコートにやって来ている。
ああ。やっぱりボールが手に馴染む感じがいい。こんなのまた意志が揺らいでしまうではないか。
シュートのコツを教えて欲しいと言われたが、誰かに教えるなんてしたことがない。
中学の時も、後輩には他の同級生が教えてくれていた。
何度かアドバイスを求められることはあったが、その度に萎縮してしまって上手く教えられなかったのだ。
だから部活で僕はのほほんとしている印象を持たれてしまっていたし、後半はみんなに「天野はいてくれるだけで尊いんだ」「そんで俺たちに笑顔を振りまいてくれるとなお嬉しい」と言われていた。
余計なことはせずに大人しくしてろということだったのだろう…。
申し訳なくて落ち込んでしまう。
教えることができないからと、あの時はドリンクやらタオルやらを配ったりしてたっけ。
僕らの部にはマネージャーがいなかったから、やるとみんな喜んでくれた。
顔を真っ赤にされたり、泣き出されたりした時は焦ったけど。みんなそんなにマネージャーが欲しかったのかな。
そんなこんなで僕は人にバスケを教えたことがない。
ちゃんと教えられるか、とても不安だ。
「じゃあお願いします!師匠!」
「し、師匠…!?」
慣れない呼び名に汗を流す。
師匠なんて恥ずかし過ぎる。頼むからやめて欲しい。
訂正したいところだが、名前を名乗れないために何もできなかった。完全なるジレンマだ。
「えっと…。シュートっていうのは、ジャンプシュートでいいのかな?」
「はい!他のも教えて欲しいッスけど、あれもこれもはダメだって先輩に叱られました!」
元気に語ってくる彼に苦笑いを浮かべる。
ていうか、なんでずっと敬語なんだろう…。
まあそれは置いといて、頼まれて了承したからにはしっかり教えてあげたい。
そう意気込んで、僕は彼へジャンプシュートの説明を始めた。
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