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文化祭
「それでさー!俺にも分かりやすく教えてくれて、すっごい上達したんだよ!」
「そ、そうなんだ…」
楽しそうに話す名塚くんに、僕は顔を引きつらせた。
隣にいる慎太郎くんが怖い。
絶対機嫌悪くなってる。なんか黒いオーラが出てる彼に冷や汗が止まらない。
今日も昇降口で遭遇した僕らに、名塚くんは昨日の業後の話をし始めた。
慎太郎くんにはタイミングを見計らって言おうとしていたのに、これじゃ何も言い訳できない…。
「あと笑った顔とかちょー可愛かったし、俺ドキドキしちゃった!」
「…!?」
衝撃発言に、僕はゴホゴホと噎せてしまった。
名塚くんにその気はないとしても、今の発言はマズイ。
案の定慎太郎くんは今の言葉にピクリと反応してしまい、へぇ…と低い声で呟く。
「綺麗だったんだ?」
「うん!スゲー美人!」
「惚れ惚れした?」
「したした!」
「それは恋愛対象として…」
「あーもーこんな時間ダヨ!?早く教室にイコウ!」
無理やり2人の会話を遮り、僕は慎太郎くんの腕を引っ張って歩き始めた。
かなり強引になってしまったが、これ以上は危険だと思ったのだ。本能がそう警告していた。
「また遼也に顔見せたんだ」
「そ、それは事故というか…偶然見つかっちゃって…」
「へー、それで仲良くバスケしてたんだよね。楽しそー」
「しゅ、シュートを教えてくれって頼まれたから…」
「ふーん、そうなんだー」
「……」
拗ねている。慎太郎くんがあからさまに拗ねている。
不機嫌オーラ丸出しの慎太郎くんは、完全に名塚くんを敵対視してしまっている。
生駒くんはともかく、名塚くんは本当に何でもないのに。ここまで彼が過剰に反応するのは何故だろう。
もしかして、ヤキモチなのかな?
そこまで考えてブンブンと頭を振る。
自意識過剰か。なんだ今の、我ながら恥ずかしいことを考えてしまった。
──……でも。
『虎介が好きだ』
またあの言葉を思い出す。
ふとした時に蘇る、彼の手の動きや甘露のような甘い声。
その度に体が熱くなって、指先が痺れるような感覚がした。
怖かったはずなのに、何故こんなにも胸が高鳴るのだろう。
すっかり膨れている慎太郎くんの隣で、僕は赤くなった顔を俯かせた。
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