95 / 216
文化祭4
「おいシン」
早々に教室から出て行ったシンの後を追い、呼び止める。
6限の自習が終わり下校時間となった今、渡り廊下には人はおらず静まり返っていた。
やたらと響いた俺の声に、シンは足を止め振り返る。
その余裕そうな顔に腹が立った。俺が来るのを予想していたか、もしくは俺なんか相手にしていないか。
こいつは小学生の頃からずっとそうだ。
いつだって自分が優位であろうとする姿勢は変わらない。
何も言わないシンに対して、俺は再び口を開いた。
「どういうつもりだよ」
「何が?」
「何がって、虎ちゃんのこと」
そこで少しシンの眉がピクリと動いた。
きっと“虎ちゃん”というワードに反応したんだろう。こいつは虎ちゃん関係のことにはかなり敏感だったりする。
誰にも興味を示さなかったシンが、ここまで人に執着するなんて思ってもみなかった。
でも、だからこそ今回取った行動が理解できなかったのだ。
少し苛立ちながら、俺は言葉を続ける。
「みんなに素顔見られちゃマズイだろーが。虎ちゃんに惚れるやつが出てきたら、困るのはお前だろ」
そう言うとシンは無言で俺を見つめ、次にはフッと微笑んだ。
その笑みに俺は息を呑む。
「大丈夫だよ。誰にも、奪わせないから」
「…っ」
笑顔怖っ。
荒れていた頃に比べれば大分丸くなったはずなのに、何故だかその恐ろしさは以前よりも増している。
そこらのチンピラの数倍怖ぇ…。
「あと優璃。虎介にメイド喫茶のバイトさせたんだって?」
「え」
何故それを…?
驚愕する俺に、シンはにっこりと微笑むだけだ。
どっから知るんだそんなの!
こいつの情報網恐るべし!
再び背を向け歩き出したシンに、俺はもう声をかけることができなかった。
ともだちにシェアしよう!