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文化祭4

「おいシン」 早々に教室から出て行ったシンの後を追い、呼び止める。 6限の自習が終わり下校時間となった今、渡り廊下には人はおらず静まり返っていた。 やたらと響いた俺の声に、シンは足を止め振り返る。 その余裕そうな顔に腹が立った。俺が来るのを予想していたか、もしくは俺なんか相手にしていないか。 こいつは小学生の頃からずっとそうだ。 いつだって自分が優位であろうとする姿勢は変わらない。 何も言わないシンに対して、俺は再び口を開いた。 「どういうつもりだよ」 「何が?」 「何がって、虎ちゃんのこと」 そこで少しシンの眉がピクリと動いた。 きっと“虎ちゃん”というワードに反応したんだろう。こいつは虎ちゃん関係のことにはかなり敏感だったりする。 誰にも興味を示さなかったシンが、ここまで人に執着するなんて思ってもみなかった。 でも、だからこそ今回取った行動が理解できなかったのだ。 少し苛立ちながら、俺は言葉を続ける。 「みんなに素顔見られちゃマズイだろーが。虎ちゃんに惚れるやつが出てきたら、困るのはお前だろ」 そう言うとシンは無言で俺を見つめ、次にはフッと微笑んだ。 その笑みに俺は息を呑む。 「大丈夫だよ。誰にも、奪わせないから」 「…っ」 笑顔怖っ。 荒れていた頃に比べれば大分丸くなったはずなのに、何故だかその恐ろしさは以前よりも増している。 そこらのチンピラの数倍怖ぇ…。 「あと優璃。虎介にメイド喫茶のバイトさせたんだって?」 「え」 何故それを…? 驚愕する俺に、シンはにっこりと微笑むだけだ。 どっから知るんだそんなの! こいつの情報網恐るべし! 再び背を向け歩き出したシンに、俺はもう声をかけることができなかった。

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