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文化祭7

文化祭の準備期間に入り、業後のクラスは劇の準備で忙しない。 部活に入っている人も、いつもより開始時間を遅くして参加してくれている。 テキパキ動くみんなを呆然と眺め、とろい僕はぽかんと立ち尽くしていると後ろから肩を叩かれた。 ビクッとして振り返ればクラスの女子が二人、面倒そうにこちらを見ていた。その片方の子は手に衣装を持っている。 「一応これで合わせてみたいから、着替えてくれない?」 渡されたのはジュリエット用の衣装だ。 瑠璃色のドレスにはフリルが付けられていて、とても可憐な印象を受ける。 これは去年の文化祭で使われたものらしく、取り敢えずサイズチェックのために持ってきたらしい。 「まぁそれが合えば再利用してもいいだろうけど。買ったりするの面倒だし」 「パパッと着替えちゃって。あ、マスクとかは取ってよ」 「…っ」 言われて体が強張った。 ここにきてようやくジュリエット役になった実感が出てきて、心臓がばくばくし始める。 本当に素顔を晒してしまっていいのだろうか。あまりに急な展開に慌てて、言葉が出てこない。 こうなることは分かっていたから心の準備はしてきたはずだった。 でも、いざとなると…。 「ねぇ。早くしてくれない?」 「ウチら忙しんだけど」 「え、あ、ご、ごめんなさい…」 苛立ちのこもった声をかけられ我に返る。 僕はとっさに頭を下げて気持ちを切り替えた。 こんなのじゃダメだ。わざわざ時間を割いてもらっているのに、申し訳ないだろう。ここで躊躇っていては迷惑がかかる。 『少しずつでも慣れてかないと、いつまで経っても変われないよ』 いつの日か、慎太郎くんにそう言われたことを思い出す。 怖いけど、怯えたままでは前に進まない。 慎太郎くんだって色々抱えているものがあって、それでも堂々としているじゃないか。 僕も彼のようになりたい。ずっと抱いていた想いが膨らみ、胸を熱くした。 受け取ったドレスをキュッと握り、僕は意を決して頷く。 マスクと眼鏡を外す理由が分からなかったけど、確かにこの衣装を着た状態で付け続けているのは逆に滑稽だ。 そう思い、僕はえいやっとそれらを外す。 晒された顔に、興味あり気に向けられていた二人の目が見開かれた。

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