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文化祭11
その夜、泣いている僕を父さんと碧兄が心配してくれた。
2人に事情を話すとそれはもう激怒して、次の日父さんが学校に乗り込んだくらいだ。
碧兄も告訴がどうのだと黒い笑みを浮かべていたし、2人を宥めるのは相当苦労した。
でもそれ以上に嬉しかった。あんなに僕のことで怒ってくれたことに、とても愛情を感じたから。
「正直、僕は不幸人だって思ってる。でも家族には恵まれた。それはよく分かってるんだ。あんまり記憶はないけど、お母さんのことも、僕はとても大好きだった」
「……そっか」
慎太郎くんの声は優しかった。顔を見れば、僅かに俯き微笑んでいる。
その瞳には何が映っているのだろう。
ただ寂しさが滲んでいることは分かって、僕の胸は締め付けられた。
ああ、また彼を傷つけてしまった。僕は何をしているのだろう。
謝りたかったけど、なんとなく違う気がしてできなかった。
かける言葉が見つからずオロオロしていると、慎太郎くんがくすりと笑う。なんだろう…、何かおかしかっただろうか。
「そういえば虎介って、演技とかしたことある?」
「え」
「今回役者やるでしょ?誘っといてなんだけど、大丈夫かなって」
話題を変えられ、僕は一瞬固まってから「やったことはあるよ」と答える。
それは慎太郎くんも意外だったようで僅かに目を見開いた。
「そうなんだ。文化祭とかで?」
「んー、それもあったけど…。初めは、中学の時演劇部にスケットを頼まれて…」
僕はバスケ部に入っていたけど、部員数の足りない演劇部に『大会にスケットで出て欲しい』と声をかけられたのだ。
なんでも脚本を書いた部員の子が、『この役は天野くんじゃないと嫌だ!』と譲らなかったらしい。
あまりに熱心に懇願され、結局僕は断ることができなかった。
でもやってみるとなかなか楽しい。
自分じゃない誰かを演じるというのは不思議な感覚で、心地よささえ感じた。
部員の人たちにも褒めてもらえて、大会ではナンバーワンキャストに選ばれた。
スケットの僕が選ばれ少し気不味い思いをしたけど、演劇部のみんなは心から「おめでとう」と言ってくれた。
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