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ロミオとジュリエット8
「しかも二人って系統とか結構違うじゃん。ってか君、えっと……」
「虎介です……」
「虎介くん。そのマスクって苦しくないの?」
「あ、いや、あの……」
グイグイくる彼女の勢いに気圧されてしまう。
苦しくないのかと聞かれれば、もちろん苦しい。でも「はい」と答えれば、「じゃあなんでつけてるの?」となる。
それは慎太郎くんにお願いされたからなのだけれど、何故付けさせられたのかは分からないままだ。
どう言えばいいのか分からないでいると、唐突に彼女は「あ」と口を開く。
「そうだシン。今からコンビニ行ってきて」
「は?」
「肉まん食べたい。あとピザまんも」
「そんなの自分で行けば……」
「しーんーちゃーん?」
「……いってきます」
笑顔を向けられた慎太郎くんが渋々立ち上がる。
「ごめん虎介。ちょっと行ってくるね」
「う、うん」
「変なことされたら、すぐ電話して」
「え?」
「余計なことは言わんでいい!」
結衣さんが怒鳴りつけると、慎太郎くんは「はいはい」と面倒臭そうに背中を向けた。
彼にも逆らえない人がいるんだな……と意外に思いながらその姿を見送る。
バタンッとドアが閉まると、一瞬室内が静かになった。
2人きりになったことに少し気まずさを感じる。
その静寂を破ったのは、結衣さんだった。
「あいつ、よく家出した時とかウチに来てたんだよ」
「え?」
「あと喧嘩して怪我した日とか。手当てするのにここ使ってた。だからシンのやつ、私に頭が上がらないんだ」
そう言って彼女は意地悪そうな笑みを浮かべる。
驚いた僕は目を見張った。
慎太郎くんに荒れている時期があるのは知っていた。しかしこうやって現実味のあることを言われると動揺する。
怪我をしたのに家に帰ろうとせず、ここで傷の手当てをする慎太郎くんを思い浮かべて悲しくなった。
彼はずっと、『居場所』を探しているのだろうか。
自分を受け入れてくれる、認めてくれる、そんな『居場所』を。
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