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ロミオとジュリエット9

「ありがとね。虎介くん」 「……え?」 何故お礼を言われたのか分からず目を瞬かせると、結衣さんは頬杖をついて笑みを浮かべる。 「いやーなんか。あんなシン、初めて見たから」 「あんな……?」 「んー、なんていうか……必死?みたいな」 「?」 よく分からず首をかしげると、彼女はふっと長い睫毛を伏せる。 「あいつの両親のことは知ってる?」 「……はい」 唐突な問いに間をおいて頷くと、彼女はくしゃりと頭に手をやった。 「私はさ、気づかなかったんだ。幼いシンが何を抱えていたのか。だってあいつ、全然言わないしさ。……いや、そんなのはただの言い訳だな」 自嘲の笑いを浮かべた彼女は、まるで独り言のように言葉を続ける。 「気づいてやれなかったんだ、私は。……ほんと、何してんだって感じ。だから家出してきたって言われた時も匿った。罪悪感があったんだ。シンの心に傷を作っちゃったのは、私の責任でもあるんだって。……きっとどこかで、シンは私を軽蔑してる」 そうしてどこか寂しそうに笑う結衣さん。 そんな彼女を見て、僕は無意識に悟る。 彼女も、苦しんでいるのだ。 さっき見た2人は、まるで姉と弟のようだった。だからこそ弟同然の慎太郎くんを救えなかったと、彼女は自分を責め続けている。 そう思うと、気づけば切り出していた。 「それは違います」 「……え?」 こちらに顔を向けた結衣さんに、僕ははっきりと断言する。 「慎太郎くんは、結衣さんを軽蔑したりしていません」 その言葉に、彼女の目が僅かに見開かれた。 少しの静寂が起き、次には結衣さんが静かに問うてくる。 「なんで、そんなこと分かるの?」 交わっていた視線が逸らされた。 彼女は俯き、溜息をつく。 「私は守ってやれなかった。今だって、何があの子のためなのか分からなくて……」 「そんなにもあなたは、彼のことを思っているじゃないですか。それは、慎太郎くんにも伝わっていると思います」 再び僕を見た結衣さんに、僕はマスク越しに微笑みを浮かべる。 「だって、慎太郎くんが結衣さんを見る目が、とても優しかったから」

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