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ロミオとジュリエット12
「いや〜ありがとね虎介くん。是非また写真撮らせてねっ」
「二度と撮らせないし」
「あははは……」
玄関で見送ってくれる結衣さんの満足げな顔に、僕は疲れ切った笑みを返す。
彼女の写真への熱意はなかなかで、出される要求がとても細かかった。普通に写真を撮るだけかと思ったら、まんま「撮影」だったので面食らってしまう。
時間はだいぶ経っていたようで、時刻は午後8時とすっかり夜になっていた。
遅くなることは家族に連絡しておいた。今日は碧兄がご飯を作ってくれるらしい。凄く楽しみだ。
「じゃあ僕たちはこれで」
そう言って頭を下げ、僕は外に出ようとした。
その時……
慎太郎くんの携帯が鳴った。
彼は画面を見るとその瞳に影がかかる。
さっきまで年相応の姿を見せていた慎太郎くんが、一瞬で元に戻ってしまった気がした。
「慎太郎くん……?」
声をかけると、彼はにこりと微笑む。
“いつもの爽やかな笑顔”だ。
「ごめん。ちょっと電話出てくるね」
そう言って慎太郎くんは先に外へ出てしまった。
なんとなく察する。きっと連絡先は両親のどちらかだ。
今までは憧れていた彼の笑顔が、今となっては向けられると悲しい気持ちになる。
胸がキュッと締め付けられて、僕は唇をキツく結んだ。
「まったくあいつは……」
溜息交じりにそう呟くと、結衣さんは頭をかいて髪の毛をボサボサにする。
見た目に似合わず豪快な彼女に呆気にとられていると、次には真剣な顔でこちらを見つめてきた。
「虎介くん。シンのこと、よろしくね」
「へ?」
目を点にする僕に、結衣さんはなおも真っ直ぐな視線を向け続ける。
「シンってあんなやつだからさ。周りからは優秀だなんだって言われてるけど、よく見れば穴だらけなのよ。だから、君があの子を支えてあげて欲しい」
「僕が、慎太郎くんを……?」
「そう。私には、それができなかった……。でも、君にならできると思うの」
心臓が大きく跳ねた。
僕が彼を支えるなんて、とんだお門違いだ。
寧ろ支えられているのは僕の方で、彼には迷惑ばかりかけている。
でも、できるできないではなくて、ただ単純に「支えたい」と思ってしまった。
雨の中、公園のベンチに1人座る彼を思い出す。
その後見た、あまりにも無防備な表情が頭から離れない。
繋いだ手はひどく冷たくて、放っておくことなんてとてもできなかった。
「……僕は、慎太郎くんを支えられるような人間じゃありません。周りに怯えて、何も行動することができない、落ちこぼれです」
「虎介くん……」
「でも。ほんの少しでも彼の力になりたい。僕にできることがあるなら、何だってしたいです。慎太郎くんは僕にとっても、大切な人だから……」
真っ直ぐに結衣さんを見つめ返すと、彼女は驚いたように瞠目し、次には優しく微笑んだ。
「ありがとう。虎介くん」
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