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実る想い
「すごい!肌綺麗だから凄くよく馴染む!」
「わ〜羨まし〜っ。アイラインとかパッチリ二重だからめっちゃ引きやすいし!」
「ほっぺプニプニ〜っ。きゃー!超かわいいんだけど!」
3人の女子に化粧をしてもらう中、僕の心臓はバクバクいっていた。
もう少しで劇の本番。
始まってしまえば平気なところはあるけど、その前がとても緊張する。
周りも大道具や小道具の最終確認などで慌ただしかった。役者の人たちも衣装に着替えて、今日が本当に本番なんだという自覚が湧いてくる。
「はい!ジュリエット完成!」
その声に気付いて虎介を見たクラスメイトたちは、それぞれ声を上げた。
化粧をしていた女子たちに促され、虎介はおずおずと立ち上がる。
そこには息を呑むほど美しく可憐な少女がいた。
セミロングほどの長さがある茶髪のウィッグは、赤のリボンでハーフアップにまとめられている。
その髪に包まれた小さな顔は、ガラス玉のように綺麗で大きな瞳が印象的だ。
他にも小ぶりな鼻や薄い唇など、恐ろしいほど整った顔立ちをしている。
ハイウエストで瑠璃色のドレスは貴婦人のような上品さがあり、なおかつ可憐な乙女を連想させた。
自分の魅力をいまいち理解していない虎介は、羞恥に顔を赤らめ俯く。
その仕草がこの上なく愛らしい。
「やば。めっちゃかわいいんだけど……」
「同性なのが信じられねー……。惚れるわこんなん」
もう騒ぐのを通り越して溜息を吐く周りに、虎介は体を縮こまらせた。
(こんな大勢に女装をした姿を見られるなんて……)
メイド喫茶の時は周りの子も女装をしていたから(それが仕事だし)吹っ切れていたところがあるけれど、今この場では僕だけだ。
それがどうしようもなく恥ずかしい。
今までの影響でか、無性に顔を隠したくなった。
しかし今日は眼鏡とマスクを禁止されているから我慢しなくてはならない。
苦行だ。苦行以外のなにものでもない。
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