121 / 216

実る想い4

劇が始まるアナウンスが流れ、静寂が起きる。 やがて幕が上がり、大道具が姿を見せた。 キャピュレット家、裏庭のバルコニー。 観客はその完成度に感嘆する。しっかりと建てられた大道具は、それだけで迫力があった。 次にはジュリエットの部屋のバルコニーの下に、ロミオが姿を見せる。 登場した慎太郎に歓声が上がった。 彼が本命で劇を見に来た生徒も多いだろう。 ロミオは舞台中央近くまで来ると、流れるように語りだす。 「もう舞踏会場には戻れない。僕をごろつきみたいに罵って、あんな母親からどうしてジュリエットが生まれただろう。ああ、きっとこの館のどこかにジュリエットは居るはずだ。話が出来なくてもいい。せめてもう一度だけ姿が見たい」 その甘い声に観客は魅了された。 憂いを帯びたロミオの表情に顔を赤らめ、その滲み出る色気に惹かれていく。 「流石は慎太郎。出だし好調っ」 舞台袖で見守っていた級長である竹内はグッと拳を握った。 つかみは完璧。この流れのまま、さらに観客を引き込ませる。 「頼んだぞ、ジュリエット」 クラスのみんなから背中を押された虎介は、一度大きく深呼吸をする。 自分はただ、精一杯演技をすればいい。今までたくさん練習してきたんだ、怖気付くな。 「うん。大丈夫」 静かに呟き、虎介は瞑目していたその瞳をゆっくりと開いた。

ともだちにシェアしよう!