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実る想い6
「ロミオ。ロミオ。あなたはどうしてロミオなの。私に語りかけた優しい言葉。あの愛の台詞が本当なら、名前はロミオでもいい。せめてモンタギューという肩書きを捨てて」
まるで歌を紡ぐように語り、ジュリエットはバルコニーから部屋に戻ろうとする。
遠ざかろうとするジュリエット。その背中に、今まで息を潜めていたロミオは咄嗟に呼びかけた。
「ジュリエット、待ってくれ」
突然の声に、ジュリエットは驚いて振り返る。
「誰!」
「話がある。部屋には戻らないで」
「ひどい、誰なの」
「ジュリエット。大好きなあなたが名前を呼んでくれた」
「……ロミオ。ロミオなのね。あんまりだわ。そんなところに隠れて、立ち聞きしていたのね」
「違う。ジュリエットに一目会いたくて、月に誘われてここまで来たんだ」
「恥ずかしい……、独り言を全部聞かれてしまうなんて……。どうしてこんなところに入り込んだの?殺されるかも知れないのに」
「あなたへの思いが溢れて、気が付いたらここに来ていた」
その言葉を聞いた瞬間、虎介の心臓は大きく跳ねた。
それはジュリエットとしてロミオに抱く恋心故なのか。
無意識に赤面しながらも、虎介は言葉を紡ぐ。
「ロミオ。あなたはモンタギューの跡取り。ねえお願い、その名前を捨てて。私は何の肩書きもないロミオと、ずっと一緒に生きていきたい」
「きっとそうしよう。ロミオはもうジュリエットのものだ。天国にだって一緒に付いていく」
「ああ。けれどどうしようロミオ。私、パリスっていう貴族と婚約させられそうなの」
「なんだって」
「お願い、私を助け出して。あなたのものにして」
「婚約なんか許さない。ジュリエット、実力行使だ。僕らが先に婚約を果たそう。結婚式を挙げて、指輪を交換して、婚礼の儀式を済ませよう。君が本当に僕を信じてくれるなら」
「信じるわ、ロミオ」
「明日の午後3時に、ロレンス神父の教会に来て欲しい。僕は絶対に神父様を説得してみせる。何度頭を下げても、暴れ回ってでも、そこで2人の結婚式を挙げよう」
「嬉しい。午後3時ね、必ず行くわ。私はすべてをロミオに預けてどこまでも付いていく。お休みロミオ、今日の幸せが覚めませんように」
「お休みジュリエット。きっと明日、夢の続きを見よう」
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