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実る想い7

2人の芝居に、観客はすっかり物語の中に入り込んでいた。 2人の掛け合いの中で紡がれる甘い言葉に胸を高鳴らせ、2人の仕草や声音、表情に夢中になる。 場面は変わり、翌朝ロミオが僧院にロレンス上人を訪ね、ジュリエットとの結婚式を挙げて欲しいと懇願するシーンが始まる。 一旦ハケた虎介に、クラスメイトたちは「凄くよかったよ」「あと半分くらい、頑張って」と声をかけてくれた。 役から素に戻った虎介は、なんだか小っ恥ずかしくなって顔を俯かせる。 誤魔化すように舞台に視線を向ければ、芝居をする慎太郎くんが見えた。 その身振り一つ一つが美しくて、無意識に息を吐く。 彼が僕に一緒に役者をしようと言ってくれて、初めは落ち込んだけど、今はお礼を言いたかった。 彼は僕に、前に進むきっかけをくれたんだ。僕が自分のコンプレックスを克服できるように、と。 彼はいつだって僕に道を示してくれる。 舞台上の彼の姿に、きゅっと胸が締め付けられた。 それから物語は進んでいく。 乳母が使者となって、「今日の午後にロレンス上人の庵室で式を挙げよう」というロミオの伝言がジュリエットに伝えられた。 焦れて待っていたジュリエットは飛ぶようにロレンスの庵室に駆けつける。 そして、舞台は最後、教会でのシーンに差し掛かった。 姿を見せたジュリエットに、ロミオは感嘆の声を上げ彼女を優しく抱きしめる。 また高鳴った鼓動に、虎介は顔を赤らめた。 一々過剰な自分が嫌になる。集中しなきゃいけないのに、何を動揺しているのだろう。 ダメだ。しっかりしないと。 一度小さく息を吐いて、虎介は気持ちを落ちつかせる。

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