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実る想い11

(今のって、間接キス……) 意識した瞬間、カァッと顔が赤くなる。 甦るのは、今日の劇のラスト。 そっと合わせられた、柔らかいあの感触。 あれは、偶々触れ合ってしまったのだろうか。 合わさったのは、ほんの一瞬だった。それも触れるか触れないかの曖昧なものだ。 それなのに勝手に意識して、動揺して、僕は…… 「虎介」 唐突に呼ばれた名前にハッと我に返った。 反射的に顔を上げると、机を挟んで彼と目が合う。 まるでこの場所だけ他と切り離されたように静かだった。 夕日に照らされた慎太郎くんはとても綺麗で、僕は呆然と彼の顔を眺める。 「改めて、言いたいんだ」 「……え?」 「あんな形で伝えたままなのは、不本意だから」 真っ直ぐな瞳に、ドクンと心臓が跳ねた。 固まる僕をジッと見つめて、彼は優し気な笑みを浮かべる。 「俺、虎介のこと好きだよ。もう虎介が怖がることはしたくない。ゆっくりでいいから、俺に向き合って欲しい」 静まり返った教室に、一瞬時が止まったかのような錯覚をした。 やがてじんわりと胸に広がる暖かさを感じる。 きっとこれは喜びだ。今まで感じたことのないくらい熱を帯びた幸福感だ。 「……僕、慎太郎くんに憧れてた。いつもキラキラしてて、みんなを笑顔にできる慎太郎くんに」 でもきっと、これは憧れだけじゃなかった。 志音くんにこの感情の名前を教えてもらって、慎太郎くんといるたびに、それを感じることができた。 「好きって言ってもらえて、僕、すごく嬉しいよ。あの、よく、分からないけど……」 赤らんだ顔は、夕日で誤魔化せているだろうか。 消え入りそうな声で、それでもなんとか、彼に伝える。 「きっと……。僕も、同じだと思う……」

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