129 / 216

実る想い12

その瞬間── 慎太郎くんにギュッと抱きしめられた。 「……!?」 驚いて体をビクつかせると、「あ、ごめん!」と慎太郎くんが咄嗟に体を離す。 慌てる彼をキョトンと見つめ、次には吹き出してしまった。 こんなに余裕のない彼は初めてで、なんだか可笑しい。 「ふふ、いいよ。大丈夫」 笑顔でそう返すと、慎太郎くんは顔をくしゃりと歪めてもう一度、今度は優しく僕を抱きしめた。 「……虎介」 「ん?」 「キス、してもいい?」 「……うん。いいよ」 父さんが言っていた。 人同士が愛し合うということは、理解できないことを理解するということだと。 僕は今までその意味がよく分からなかったけど、今ならなんとなく分かるような気がする。 理解できないことを理解したいと思う。 それくらい慎太郎くんは僕の中で、もう立派な《大切な人》だった。 ゆっくりと瞼を閉じると、今度は確かに唇が重なった。 その瞬間、涙が出そうになるくらいの幸福感が身体中に広がっていく。 ああ、好きだ。僕は、慎太郎くんが好きなんだ。 そう実感できることがどれだけ幸せなことだったのか。 僕はこの時、初めて知ることができた。

ともだちにシェアしよう!