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実る想い12
その瞬間──
慎太郎くんにギュッと抱きしめられた。
「……!?」
驚いて体をビクつかせると、「あ、ごめん!」と慎太郎くんが咄嗟に体を離す。
慌てる彼をキョトンと見つめ、次には吹き出してしまった。
こんなに余裕のない彼は初めてで、なんだか可笑しい。
「ふふ、いいよ。大丈夫」
笑顔でそう返すと、慎太郎くんは顔をくしゃりと歪めてもう一度、今度は優しく僕を抱きしめた。
「……虎介」
「ん?」
「キス、してもいい?」
「……うん。いいよ」
父さんが言っていた。
人同士が愛し合うということは、理解できないことを理解するということだと。
僕は今までその意味がよく分からなかったけど、今ならなんとなく分かるような気がする。
理解できないことを理解したいと思う。
それくらい慎太郎くんは僕の中で、もう立派な《大切な人》だった。
ゆっくりと瞼を閉じると、今度は確かに唇が重なった。
その瞬間、涙が出そうになるくらいの幸福感が身体中に広がっていく。
ああ、好きだ。僕は、慎太郎くんが好きなんだ。
そう実感できることがどれだけ幸せなことだったのか。
僕はこの時、初めて知ることができた。
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